アメリカのドナルド・トランプ大統領が、移民取り締まりに対する抗議活動が続くロサンゼルスに対し、数千人規模の州兵と数百人の海兵隊員を派遣したことで、全米で激しい議論を呼んでいる。大統領の支持者からは「治安維持のために必要」とする声が上がる一方、カリフォルニア州知事やロサンゼルス市長からは「権限を逸脱している」との批判が出ている。
この強硬措置に対する評価は、一般市民の間でも分かれている。BBCがインタビューした6人の有権者の声からは、アメリカ社会の深い分断が浮き彫りとなった。
目次
「軍の投入は過剰」 表現の自由を懸念する声
インディアナ州在住のエリック・カイザー氏(46歳・無所属)は、「抗議は憲法で守られた表現の自由であり、軍の出動は連邦政府による過剰な対応だ」と懸念を示す。「これはアメリカ国民を軍と対立させかねない」とし、移民税関捜査局(ICE)による強制捜査についても「法の適正手続きが守られていない」と批判した。
「秩序回復は当然」 トランプ支持者の強い擁護
これに対し、テキサス州在住のデメシオ・ゲレーロ氏(70歳・共和党支持)は、メキシコ生まれで帰化した市民として、「暴力的な抗議は恥ずべき行為であり、大統領の対応は当然」と強調。「多くの抗議者は前科があり、秩序を乱す存在。メキシコの国旗を掲げていること自体が侮辱的だ」と語った。
同じくインディアナ州のジム・サリヴァン氏(55歳・共和党支持)は、「暴動は国家の主権と社会秩序への攻撃」としながらも、「大統領が合法性の限界まで踏み込む姿勢には不安もある」と慎重な姿勢を見せた。
「アメリカの原則を逸脱」 民主党支持者の憤り
カリフォルニア州在住のローリ・グレゴリー氏(62歳・民主党支持)は、「ナショナルガードの投入に涙が出た。まるでヒトラーの手法を再現しているようだ」と強く批判。「この国の建国理念を真っ向から否定している」と訴えた。
ネブラスカ州のデヴィン・デ・ベラスコ氏(22歳・無所属)も、トランプ大統領の行動は「民意ではなく、自らの意思を強制するもの」と非難。「ICEによる強制拘束は、適正な法手続きを欠いている」とし、地元での抗議参加も視野に入れていると語った。
「暴力的な抗議には責任を」 退役軍人の厳しい指摘
退役陸軍大佐であるテキサス州のロス・バレラ氏(59歳・共和党支持)は、「州政府が連邦の法執行を妨げる場合、軍の投入はやむを得ない」と指摘。「高速道路の封鎖や警察車両の破壊といった抗議行動は、表現の自由の範囲を超えている。暴力で注目を集める行為には代償が伴うべきだ」と断じた。
「国家と市民の分断」が進む現状
トランプ政権による軍派遣は、移民政策の強化という一貫した方針の一部だが、その対応が「治安維持」か「権力の乱用」かをめぐり、国民世論は激しく対立している。
抗議行動のきっかけとなったICEによる強制捜査や、トランプ氏の大統領としてのリーダーシップについての評価は、今後の選挙にも影響を与える可能性がある。アメリカ社会における移民問題と表現の自由のあり方は、今まさに重大な岐路に立たされている。
ソース:Americans react to Trump sending military into Los Angeles