現代アメリカインディペンデント映画の最も重要な作家の一人、ケリー・ライカート監督の特集上映「ケリー・ライカートと響きあう映画たち」が、2025年6月21日から7月4日までの期間で渋谷シネマヴェーラで開催される。
本特集では、長編デビュー作『リバー・オブ・グラス』から、カイエ・デュ・シネマ誌で2021年のベスト・ワンに輝いた『ファースト・カウ』まで、ライカート監督の主要作品を上映。さらに、監督が影響を受けたと公言するエルマンノ・オルミやアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の作品、テーマ的に共鳴する作品群も併せて上映され、ライカートの世界観を多角的に掘り下げる貴重な機会となる。
目次
現代アメリカ映画の重要作家、ケリー・ライカート監督とは
ケリー・ライカートは1964年、米国マイアミ生まれの映画監督である。長篇デビュー作『リバー・オブ・グラス』がサンダンス映画祭で高く評価されたものの、その後10年以上も次回作の資金が得られない不遇の時代を過ごした。
しかし、その間に自主制作した短編がトッド・ヘインズをはじめとする著名な映画人の目に留まり、『オールド・ジョイ』の製作へと繋がった。以降、『ウェンディ&ルーシー』(カンヌ国際映画祭)、『ミークス・カットオフ』(ヴェネツィア国際映画祭)、『ファースト・カウ』(ベルリン国際映画祭)と、コンスタントに作品を発表し、いずれも国際的に高い評価を獲得。静謐な語り口の中に、社会の周縁で生きる人々の孤独や繋がりを深く描き出す作風で、米国インディペンデント映画界における確固たる地位を築いた。
上映作品紹介:ライカート監督の軌跡を辿る6作品
本特集上映の中心となる、ケリー・ライカート監督の長編6作品を紹介する。
『リバー・オブ・グラス』(1994年)
退屈な日常から逃れたい主婦と無職の男。拾った銃で人を撃ったと勘違いしたことから始まる、目的のない逃避行を描く。何も起こらないロードムービーの系譜を解体し、鮮烈な印象を残した長編デビュー作である。
『オールド・ジョイ』(2006年)
もうすぐ父親になる男と、自由気ままに生きる旧友。二人がオレゴンの森にある秘湯を目指すロードムービー。言葉少なに行き交う時間の中に、もう二度と交わることのない互いの人生への寂しさが静かに滲む。
『ウェンディ&ルーシー』(2008年)
仕事を求めてアラスカを目指すウェンディと、彼女の唯一の家族である愛犬ルーシーの旅路を描く。ミシェル・ウィリアムズ演じるウェンディの置かれた過酷な状況と、それでも失われない人間の尊厳を、抑制の効いた演出で捉えた傑作。
『ミークス・カットオフ』(2010年)
19世紀のオレゴンを舞台に、道に迷った開拓者一家の過酷な旅を描く。西部劇の神話を解体し、これまで周縁化されてきた女性や先住民の視点から歴史を問い直す。不穏な緊張感が持続する野心作である。
『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(2016年)
モンタナの厳しい自然を背景に、三人の女性が抱えるそれぞれの孤独と人生を描いた群像劇。ローラ・ダーン、クリステン・スチュワート、ミシェル・ウィリアムズ、そしてリリー・グラッドストーンら女優陣の繊細な演技が光る。
『ファースト・カウ』(2020年)
1820年代のオレゴンで、一攫千金を夢見る料理人と中国人移民の友情を描く。資本主義の黎明期を舞台に、ささやかな幸福と友情の行方を静かに見つめる新たな西部劇。多くの批評家から年間ベストに選ばれるなど、ライカート監督の代表作の一つとなった。
ライカートと響きあう映画たち:上映作品一覧
本特集では、ライカート監督作品のほか、フリッツ・ラング、ニコラス・レイといった古典から、アニエス・ヴァルダ、濱口竜介、ビー・ガンといった現代の作家まで、時代や国を超えて選ばれた全17作品が上映される。
- 『リバー・オブ・グラス』
- 『オールド・ジョイ』
- 『ウェンディ&ルーシー』
- 『ミークス・カットオフ』
- 『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』
- 『ファースト・カウ』
- 『暗黒街の弾痕』(監督:フリッツ・ラング)
- 『夜の人々』(監督:ニコラス・レイ)
- 『女群西部へ!』(監督:ウィリアム・A・ウェルマン)
- 『美しき冒険旅行』(監督:ニコラス・ローグ)
- 『冬の旅』(監督:アニエス・ヴァルダ)
- 『聖なる酔っぱらいの伝説』(監督:エルマンノ・オルミ)
- 『凱里ブルース』(監督:ビー・ガン)
- 『偶然と想像』(監督:濱口竜介)
- 『スチームバス 女たちの夢』(監督:ジョセフ・ロージー)
- 『真昼の不思議な物体』(監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン)
- 『波のした、土のうえ』(監督:小森はるか、瀬尾夏美)
特集上映 開催概要
- 特集名: ケリー・ライカートと響きあう映画たち
- 開催期間: 2025年6月21日(土)~ 2025年7月4日(金)
- 料金: 1400円均一
- 備考: ポイントでの鑑賞は不可。上映スケジュール等の詳細は公式サイト等で確認が必要。