新潮社は2025年6月26日、臨床心理学者でユング派分析家の第一人者である河合俊雄氏による話題書『謎とき村上春樹─「夢分析」から見える物語の世界─』を発売した。本書は、2011年刊行の『村上春樹の「物語」――夢テキストとして読み解く』に新たな作品論4編を増補した決定版であり、社会現象となった『1Q84』から最新長編『街とその不確かな壁』まで、村上春樹作品の深層をユング心理学の視点から読み解く。

『謎とき村上春樹』:村上文学の「謎」を解き明かす心理学的アプローチ
本書は、村上春樹作品を心理学的な視点、特に「夢分析」を通して深く考察している点が最大の特徴だ。著者の河合俊雄氏は、村上春樹と深く親交を結んだ父で臨床心理学者の河合隼雄氏の遺志を継ぎ、国際分析心理学会会長などを歴任した世界的なユング研究者である。その第一線の心理学者としての知見に基づき、村上文学に潜む「謎」や「物語」の構造を精緻に分析している。
収録作品と「夢分析」の視点
本書では、『1Q84』、『騎士団長殺し』、『スプートニクの恋人』、『ねじまき鳥クロニクル』、『アフターダーク』、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、そして最新作の『街とその不確かな壁』など、多岐にわたる村上春樹作品が取り上げられている。それぞれの作品に登場する象徴的な要素や不可解な出来事が、ユング心理学における夢の解釈と結びつけられ、物語の根源的な意味が浮き彫りにされる。例えば、『1Q84』における青豆と天吾の「10歳」での出会い、『騎士団長殺し』の「石室」、『街とその不確かな壁』の「夢読み」として暮らす街などが、「夢」という視点から読み解かれている。
著者・河合俊雄氏が語る村上文学の魅力
著者の河合俊雄氏は、本書の「あとがき」で、村上春樹の作品が「現代の意識を見事に捉えている」と述べている。ユング派心理療法家として、現実や常識とは異なる世界、すなわち「夢やイメージを重視する」立場をとる河合氏にとって、村上作品が描き出す世界は、まさに意識の「アヴァンギャルド」であると指摘する。この視点が、本書における村上文学の新たな解釈を可能にしている。
書籍情報
- タイトル: 謎とき村上春樹─「夢分析」から見える物語の世界─
- 著者名: 河合俊雄
- 発売日: 2025年6月26日
- 造本: 新潮選書/四六判変型ソフトカバー
- 定価: 1,980円(税込)
- ISBN: 978-4-10-603930-0
- URL: https://www.shinchosha.co.jp/book/603930/
村上春樹作品の愛読者はもちろんのこと、心理学や物語の深層に関心を持つ人々にとっても、必読の一冊となるだろう。