河出書房新社は2025年6月27日、パーシヴァル・エヴェレット著、木原善彦訳の小説『ジェイムズ』を刊行した。本作は2024年3月のアメリカでの刊行以来、ピュリツァー賞、全米図書賞など主要文学賞を軒並み受賞し、各紙誌で年間最優秀図書に選出されるなど、文学界の歴史的快挙を成し遂げている。加えて、ユニバーサル・ピクチャーズが映画化権を取得し、スティーブン・スピルバーグが製作総指揮を務めるとの報道もあり、映像産業界からも大きな注目を集めている。

文学界を席巻した話題作、その革新性とは
『ジェイムズ』は、マーク・トウェインの不朽の名作『ハックルベリー・フィン』を大胆に再構築した作品だ。これまで白人少年ハックの視点で語られてきた物語を、逃亡する黒人奴隷ジェイムズ(ジム)の視点から描くことで、新たな解釈と強烈なメッセージを提示している。ブラックユーモアと皮肉に満ちた筆致で、奴隷制という歴史の暗部、そして人間の尊厳と自由をめぐる闘いを鮮烈に描き出している。河出書房新社編集担当者は、「読者は冒頭から驚くことになる」とし、白人の前で愚鈍を装い、裏では洗練された言葉で「本当の話」を語り合う黒人奴隷たちの姿が、いかに痛快であるかを語っている。単なる名作の焼き直しではなく、現実を根底から覆す「劇薬のような恐ろしい作品」と評されており、その革新性が高く評価されている。
日本翻訳大賞受賞の木原善彦氏が手掛ける「邦訳不可能」への挑戦

著者のパーシヴァル・エヴェレットは、その特異な文体から「邦訳不可能」と評されることもあった作家だ。『Dr. No』でPEN/ジーン・スタイン図書賞を受賞し、『The Trees』がブッカー賞最終候補となるなど、これまでも高い評価を得てきた。特に2023年公開の映画『アメリカン・フィクション』は、彼の小説『Erasure』を原作とし、アカデミー賞脚色賞を受賞するなど、映像化作品も成功を収めている。今回の『ジェイムズ』の翻訳を手掛けたのは、ウィリアム・ギャディス『JR』やエヴァン・ダーラ『失われたスクラップブック』で日本翻訳大賞を受賞した木原善彦氏。河出書房新社は、木原氏が「最良の訳者」であり、「間違いなくエヴァレットの最高傑作である『ジェイムズ』を日本の読者に届けられることに高揚している」とコメント。その難解な文体をいかに日本語で表現しているのか、翻訳文学ファンからも注目が集まる。日本を代表する作家である西加奈子氏、星野智幸氏、文芸評論家の三宅香帆氏も本作を絶賛しており、国内での評価も高まっている。