タイザン5のマンガ原作の『タコピーの原罪』は第1話37分の変則的な構成となっている。
しかし、これが「変則的」と評されなくなるといいなと少し思っている。
本作は毎週1話ずつ各配信サイトで配信される。しかし、テレビ放送はない。したがって、テレビ放送の枠にはめる必要がない。1クール12話、1話の長さは22,3分という制約もなく、放送コードも関係なく展開できるようになっている。細かいことを言えばCMに入る時のアイキャッチもCM明けで同じシーンを繰り返すみたいな表現もない。少なくとも第1話はなかった。
これがアニメの表現に何をもたらすのか。本シリーズを見る上ではそこに注目したいと思っている。
しずかとまりな、両方の境遇を一話で見せるのが重要
とりあえず第1話の長さは37分、第一話は作品の印象を作る重要なエピソードになるが、この長さがあった方がよかっただろうなと思うような内容が描かれる。
いじめられている小学生の女の子・しずかちゃんが空き地で不思議な宇宙生物・タコピーを拾う。タコピーはひみつ道具でしずかちゃんを幸せにしたいと思っているが、何をやってもしずかちゃんは幸せにならず、いじめを苦に自殺。そんな悲劇を回避するために、ひみつ道具の一つで時間を巻き戻し、何度もしずかちゃんを救おうとするが上手くいかない。
このプロセスで見せないといけないのは、しずかちゃんの境遇とタコピーの健気な努力、そしてしずかちゃんをいじめるのは、主犯格のまりなであるということだ。
さらに、まりながしずかちゃんをいじめる動機の根本となる家庭環境まで見せることを制作陣は選んでいる。テレビアニメの1話分の時間だと、しずかの境遇とまりなの境遇を1話で見せるのは難しかったかもしれない。なので、しずかの境遇を1話で描き、まりなは2話以降で描かれるという構成になるだろう。
そうすると、1話放送終了時点で、まりなに対する視聴者の印象は最悪になる。完全に諸悪の根源でヘイトを向けられる象徴としてたぶんSNSで荒れる。しかし、この作品はまりなが悪者であるという単純な結論で終えられない複雑な構造をしているので、このヘイトの印象は作品の本質を見失わせる可能性が高い。
なので、1話でしずかちゃんもまりなも両方の家庭環境を描いていく必要がある。それもタコピーとの出会いやいじめの壮絶な描写を省略せずにそこまで一気に描くことが求められる。だから、37分という時間が必要になるということだろう。
放送の枠という枷からアニメを解放できるか
もうひとつ、放送コードを気にしない表現の重要性がある。本作は、どぎつい描写が避けられない。そこを加減すると主人公が嫌な奴に見えかねない。
本作のプロデューサーは以下のように語っている。
「TBSテレビ社内でも『できないんじゃないか?』という議論がありました。でも、センシティブなシーンを削ったり、隠して映像化するのは違うのではないかとも思いましたし、1クール、12話というテレビアニメのフォーマットに強引に落とし込むのも違うと思いました。素晴らしい原作をフォーマットに合わせて尺を伸ばすのではなく、原作の素晴らしさを最大限に生かすことを考え、最初から配信にすることを提案し、1話ごとの尺も決めずに、作品の良さが一番生きる作り方を目指そうとしました。anoさんのオープニング、Teleさんのエンディングにしてもテレビサイズと言われているフォーマットからは外れています。全てが『作品にとってベストになること』を目指しています。クリエーターの方が一番いいものを作ることが正解なので、そこを大事にしようとしました」
タコピーの原罪:アニメ化の舞台裏 テレビではなく配信の理由 須藤孝太郎プロデューサーに聞く – MANTANWEB(まんたんウェブ)
隠してしまうと主人公の境遇も抱える闇も伝わりにくくなる。それでは作品の良さを最大限に発揮することは難しい。そこで出てきたのが、今回の「毎週配信」という仕組みということだ。
放送に合わせて毎週1話ずつ配信する形式は、一週間に一度話題を作れるというメリットもある。ネットフリックスの全話一斉配信の仕組みではアニメはどういうわけかこれまで上手くいくケースが少ない。それゆえにテレビで放送することに優位性があったが、配信オンリーで、しかも独占配信ではない形で毎週配信したらどうなるか。これは実験的だが、やる価値のある実験だと思う。
何より、作品のストロングポイントをテレビのフォーマットに合わせて変えなくていいというのは、作り手にとって大きなメリットだ。これが上手くいけば、日本のアニメはテレビのフォーマットから解放されるかもしれない。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』も放送版と配信版で尺の長さが異なるエピソードがあったが、あれの作り手たちも放送フォーマットに落とし込むことに窮屈さを感じていたのかもしれない。
『タコピーの原罪』がその窮屈さを突破する道を切り開けるか、注目している。
シンプルに、第一話は作画も良いし、演出も良い、物語の展開も痛烈だ。しずかちゃんの自殺シーンの体重を失った感覚が動きによって見事に表現されていて、見ていて辛いシーン(つまり優れたシーン)になっていた。デフォルメの効かせ方、感情を強調する時の情報量の乗せ方もとても良くコントロールされている第一話だった。
毎週、この質の作品が見られるのかと楽しみにしている。