2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華子乃夢噺~」の主人公として注目を集める江戸時代の出版プロデューサー、”蔦重”こと蔦屋重三郎(1750~97年)。彼の偉大な功績をたどる企画展「蔦屋重三郎-梓(あずさ)に夢を見た男-」が、実践女子大学日野キャンパス図書館(東京都日野市)で2025年8月5日まで開催中である。入場は無料。
本展では、同大学が所蔵する貴重な資料を中心に、蔦重が手がけた洒落本や黄表紙など約20点を展示。無名の青年が、いかにして喜多川歌麿や山東京伝といった才能を発掘し、江戸の出版文化を席巻する名プロデューサーへと駆け上がったのか。その軌跡を間近で感じることができる。
蔦屋重三郎の出版業の原点、吉原との深い関わり
展示は、蔦重がそのキャリアをスタートさせた吉原の地図から始まる。唯一の入口であった吉原大門から続くメインストリートが描かれた地図は、当時の賑わいを想像させる。
蔦重は吉原で「耕書堂」という書店を構え、そこで生まれたヒット作が洒落本「娼妃地理(しょうきちり)」である。これは、武家の戯作者・朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)と組み、吉原を一つの国に、遊女たちを名所旧跡に見立てて紹介するという斬新なガイドブックであった。吉原で生まれ育った蔦重ならではの発想が光る一冊であり、展示ではその複製を見ることができる。
日本橋進出と狂歌ブームの仕掛け人として
吉原で成功を収めた蔦重は、やがて一流の版元が集まる日本橋の通油町(とおりあぶらちょう)へと進出する。展示では、幕末の地図で蔦重が店を構えた場所を示しており、彼の事業拡大の様子がうかがえる。
当時、世は天明の狂歌ブームの真っ只中。蔦重はこの時流を的確にとらえ、狂歌集「故混馬鹿集(ここんばかしゅう)」(天明5年刊)を出版した。明らかに「古今和歌集」をもじったタイトルからは、風刺と遊び心に満ちた江戸の文化が感じ取れる。本書の奥付には版元として「蔦屋重三郎板」と明記されており、当時の姿を残す原装の表紙も極めて貴重である。
このほか、人気作家・山東京伝と組んで世に送り出した洒落本「傾城觿(けいせいけい)」なども展示され、蔦重のプロデューサーとしての手腕を物語っている。
歌麿、北斎、写楽を見出した稀代のプロデューサー
蔦重の最も大きな功績の一つが、後世に名を残す多くの才能を見出したことである。本展では、喜多川歌麿が初めて挿絵を手がけたとされる狂歌絵本「絵本江戸爵(えほんえどすずめ)」や、その出世作となった「画本虫撰(えほんむしえらみ)」(いずれも複製)を展示。蔦重がいかにして無名の絵師の才能を見抜き、世に送り出していったかを知ることができる。
同館の展示担当者は、「蔦重は人に恵まれ、人の才能を発見する類まれな能力があった。彼が発掘した歌麿、北斎、写楽らの作品や、新感覚の文芸を通して、蔦重の活き活きとした出版活動の姿を感じてほしい」と語る。
大河ドラマをきっかけに蔦屋重三郎に興味を持った方はもちろん、江戸の出版文化や浮世絵に関心のある方にとっても見逃せない展示会だ。
開催概要