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トランプ大統領「巨大で美しい法案」成立、エンタメ業界への影響は?音楽業界に恩恵も俳優には及ばず


ドナルド・トランプ大統領が7月4日に署名した通称「巨大で美しい法案」は、2026年の中間選挙を見据えた大きな政策転換の始まりである。この法案は、大規模な減税の延長と国防・国境警備予算の増額を柱とする一方、エンターテインメント業界にも様々な影響を及ぼす内容となっており、業界内で明暗が分かれている。

 

「巨大で美しい法案」の概要

 

この法案の主な目的は、トランプ政権第1期に導入された2017年の減税措置を延長し、国境警備と国防費に数十億ドルを追加することにある。議会予算局(CBO)によると、この法案は今後10年間で国の債務を$3.3兆ドル増加させると試算されている。

また、ニューヨーク州やカリフォルニア州などの高所得者層に特に関心の高い州・地方税(SALT)控除についても変更が加えられた。2017年の法律で設けられた40,000ドルに引き上げられるが、所得10,000ドルに戻る予定である。

一方で、メディケイド(低所得者向け医療保険制度)や栄養プログラムの大幅な削減、移民法執行の資金増額、クリーンエネルギー政策の大規模な後退も含まれており、リベラル派や環境活動家からは強い懸念の声が上がっている。

 

【法案に含まれる内容】音楽業界に追い風

 

エンターテインメント業界にとって最も注目すべき点の一つが、音楽業界への税制優遇措置である。

 

サウンドレコーディングの費用計上

 

今回の法案では、映画、テレビ、舞台演劇の制作に適用されてきたセクション181の税控除対象に「サウンドレコーディング」が追加された。これにより、アーティストやプロデューサーは、制作費のうち最大$150,000ドルまでを、償却スケジュールに載せるのではなく、発生した年に100%経費として控除できるようになった。

レコーディング・アカデミーのハーヴィー・メイソンJr.CEOは、「これは独立系アーティストにとって力強い勝利であり、彼らが創造を続けるために必要な支援を提供し、音楽業界の継続的な繁栄を確実にするものだ」と声明で述べ、この措置を歓迎した。

 

【法案に含まれる内容】周波数帯の競売と文化施設への資金拠出

 

法案には、他の分野に影響を与える条項も盛り込まれている。

  • 周波数帯(スペクトラム)の競売: 政府が商業利用のために非常に価値の高い周波数帯を特定し、競売にかけることを承認した。これにより$850億ドルの歳入が見込まれ、FCC(連邦通信委員会)のブレンダン・カー委員長は「雇用を創出し、革新を促し、より多くのアメリカ人に高速接続を拡大するだろう」と期待を示している。
  • ケネディ・センターへの資金: ワシントンD.C.にある国立文化芸術センター「ケネディ・センター」の修復、修理、警備のために$2億5700万ドルが割り当てられた。
  • アメリカ英雄の国立庭園: トランプ氏が長年構想してきた「アメリカ英雄の国立庭園」の資金として、国立人文科学基金(NEH)の予算から$4000万ドルが充てられる。この庭園には、ウォルト・ディズニーからジョン・アダムスまで、様々な人物の像が設置される予定である。

 

【法案から除外された内容】俳優の経費控除やAI規制は見送り

 

業界の一部が強く求めていたものの、最終的に法案から除外された項目も存在する。

 

パフォーミングアーティストの格差是正

 

2017年の税法改正で、多くの俳優やパフォーマーは衣装代や宣材写真代などの事業経費を控除できなくなった。俳優組合(Actors Equity)は、適格芸能人控除の上限を個人で200,000ドルに引き上げるよう長年求めてきたが、今回の法案には盛り込まれなかった。

同組合のブルック・シールズ会長は、「この措置が実現すれば、俳優から舞台監督、スタッフまで、何千人もの芸術労働者の懐にお金が戻ってくるはずだった」と失望感を表明し、今後も法案の可決を目指すとしている。

 

AI(人工知能)規制の一時停止措置

 

一部の業界団体が強く反対していた、各州が今後10年間AIを規制することを禁じる条項は、上院での採決(99対1)により最終的に法案から削除された。これにより、テネシー州で昨年成立したELVIS法のように、アーティストの声や肖像に関するパブリシティ権を保護する州法は維持されることになった。

 

まとめ:ハリウッドへの影響はまだら模様、今後の課題も

 

今回の「巨大で美しい法案」は、音楽業界には明確な恩恵をもたらす一方で、俳優たちが求めていた税制上の救済は含まれず、ハリウッド全体への影響はまだら模様となった。また、トランプ氏がかつて示唆した連邦レベルでの大規模な映像制作インセンティブ(優遇措置)も含まれておらず、業界が直面する課題は依然として残されている。法案の成立は、2026年の中間選挙に向けた政治的なメッセージ合戦の号砲となり、ハリウッドもその中で重要な役割を担っていくことになりそうだ。

ソース:What Trump’s “Big, Beautiful Bill” Does And Does Not Do For Hollywood