ナチス・ドイツ時代、アドルフ・ヒトラーお気に入りの映画監督としてプロパガンダ映画を制作し、戦後はその過去を否定し続けたレニ・リーフェンシュタール。彼女の欺瞞に満ちた自己弁護を覆し、ナチズムとの深い関係を暴き出すドキュメンタリー映画『Riefenstahl』の衝撃的な予告編が公開された。
本作は、監督のアンドレス・ファイエルがリーフェンシュタールの個人的なアーカイブへのアクセスを特別に許可され、これまで未公開だった資料を基に制作された。配給はキノ・ローバー社が手掛け、2025年9月5日にニューヨークで、9月12日にロサンゼルスで公開され、その後全米で順次公開される予定である。
映画史に刻まれた功罪
レニ・リーフェンシュタール(1902-2003)は、その卓越した映像美学により、長年にわたり映画学校の教材として研究されてきた映画監督である。特に、1935年のナチス党大会を記録した『意志の勝利』は、幾何学的に整列した70万人ものナチス党員と演説するヒトラーを神々しく描き出し、その圧倒的な映像表現は後世に大きな影響を与えた。『スター・ウォーズ』のラストシーンが本作へのオマージュであることは有名な話だ。
また、1936年のベルリンオリンピックを記録した『オリンピア』では、現代のスポーツ中継で用いられる多くの撮影技術(スローモーション、移動撮影など)を導入し、スポーツ映画の金字塔として評価されている。
しかし、これらの作品がナチスのプロパガンダとして制作されたという文脈は、常に「芸術と芸術家を切り離して評価できるか」という倫理的な議論の中心にあり続けた。
ドキュメンタリーが暴き出す「熱心なナチス信奉者」としての顔
リーフェンシュタールは戦後、自身はナチスの「信奉者」ではなく、歴史に流された一人の「同調者」に過ぎなかったと一貫して主張。ヒトラーの著書『我が闘争』すら読んだことがないと公言していた。
しかし、アンドレス・ファイエル監督の『Riefenstahl』は、彼女自身の記録を基に、その主張が虚偽であったことを説得力をもって描き出す。本作は、彼女が『我が闘争』を読んでいた証拠や、戦後もナチスの残党と親密な関係を続けていた事実を提示。さらに、彼女がドイツ国防軍によるポーランド侵攻に同行し、ユダヤ人虐殺を間近で目撃していた可能性まで示唆しており、彼女がナチスの残虐行為を「全く知らなかった」という長年の弁明を根底から覆す内容となっている。
現代社会への警鐘
本作はまた、リーフェンシュタールの美学と現代社会との不気味な類似性も指摘する。彼女は一貫して物事の「表面」と「美しさ」のみに執着した。その姿勢は、文脈や深い意味を問わず、見た目の魅力だけが追求される現代のインスタグラム文化にも通じるものがある。
映画は、「表面的なものへの執着こそが、ファシズムが要求する本質なのではないか?」という鋭い問いを投げかける。リーフェンシュタールの作品と生涯を通して、現代に生きる我々が直面する危うさを浮き彫りにする、必見のドキュメンタリーと言えるだろう。