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猛暑が常態化、日本の労働現場に迫る危機
日本総合研究所(日本総研)が2025年7月16日に発表した調査レポートによると、地球温暖化の進行に伴う極端な高温が、日本の労働環境に深刻な制約をもたらしていることが明らかになった。 近年、東京では猛暑日(最高気温35℃以上の日)が年間20日を超えることもあり、このまま温暖化対策が進まなければ、将来的にはさらに増加すると予測されている。
この気温上昇は、広範囲かつ高頻度で発生するため、熱中症のリスクを全国的に高めている。
熱中症リスクの増大、就労時間の5割が「厳重警戒」レベルに
仕事中の熱中症被害も増加傾向にあり、2025年6月には改正労働安全衛生規則が施行され、企業に対策が義務付けられた。
日本総研の分析によると、東京の6月から9月の日中(8時~18時)において、熱中症リスクを示す「暑さ指数(WBGT)」が「厳重警戒(28以上31未満)」または「危険(31以上)」となる時間の割合は、全体の約5割に達している。 これは、労働者が常に熱中症の危険にさらされている環境で働く時間がいかに多いかを示している。
高温による労働制約、7-8月は就労時間が2割減少の試算
高温は、ただちに健康被害を及ぼすだけでなく、日本の慢性的な人手不足をさらに深刻化させる恐れがある。
日本総研が気温に応じた休憩時間の確保を考慮して簡易試算したところ、特に気温が高くなる7月から8月にかけては、1日あたりの就労可能時間が最大で約2割も減少する可能性が示された。 就労可能時間の直接的な減少に加え、暑さによる作業効率の低下や、日々の労働スケジュールの変動なども、生産活動全体に悪影響を及ぼす。 また、熱中症リスクの高い労働環境は、人材確保そのものを困難にする可能性も指摘されている。
建設・運輸・警備業で特に深刻化する熱中症被害
高温の影響は、屋外での作業が中心となる業種で特に顕著である。厚生労働省のデータによれば、職場における熱中症による死傷者数は、建設業、運輸業、警備業、製造業、農・林業などで多く発生している。
特に、就業人口1万人あたりの死傷者数では警備業が1.16人と最も高く、次いで運送業(0.54人)、建設業(0.48人)となっており、これらの業種における対策が急務であることがうかがえる。
今後の課題と求められる対策
この深刻な状況を受け、企業には将来的なさらなる気温上昇を見据えた抜本的な対策が求められる。 具体的には、以下のような対策が不可欠である。
- 労働環境・装備の改善: 冷却機能付きの作業着の導入、休憩所の冷房設置など。
- 就労時間帯の見直し: 比較的涼しい早朝や夜間に作業時間をシフトする。
- 健康管理の強化: 従業員の体調を日常的にチェックする体制の構築。
- 省力化・機械化の推進: 高温環境下での人力作業を代替する技術の導入。
- 事業所の立地見直し: より冷涼な地域への移転も長期的な選択肢となりうる。
同時に、政府には各地域における高精度な気候変動予測を提供し、企業の適応策を強力に後押しする役割が期待される。
しかし、これらの「適応策」には限界があることも忘れてはならない。根本的な解決のためには、地球温暖化そのものに歯止めをかける「緩和策」、すなわち早期の脱炭素社会の実現が不可欠であると、レポートは結論付けている。