ドナルド・トランプ前大統領は2025年7月18日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とその親会社ニューズ・コーポレーションを名誉毀損で提訴した。同紙が報じた、トランプ氏が故ジェフリー・エプスタイン氏に送ったとされる手紙の内容が名誉を毀損するものであると主張している。この訴訟は、トランプ氏とメディアとの新たな法廷闘争の幕開けとなり、今回は盟友とされるルパート・マードック氏率いるメディア帝国がその相手となる。
訴訟の引き金となった「秘密」の手紙報道
ウォール・ストリート・ジャーナルは18日、トランプ氏の署名が入った2003年の手紙がエプスタイン氏に送られていたと報じた。記事によると、手紙にはタイプされた文章と共に、裸の女性の輪郭が描かれていたという。その枠内には、トランプ氏とエプスタイン氏の架空の会話が三人称で記されていたとされる。
手紙には以下のような会話が含まれていた。
ナレーション: 人生には全てを持つこと以上の何かがあるに違いない。 ドナルド: ああ、その通りだ。だがそれが何かは教えない。 ジェフリー: 私もだ。私もそれが何か知っているからね。 ドナルド: 我々には共通点があるな、ジェフリー。 ジェフリー: そうだ、考えてみれば確かに。 ドナルド: 謎めいたものは歳をとらない、気づいたかい? ジェフリー: 実は、この前君に会った時にはっきり分かったよ。 トランプ: 友とは素晴らしいものだ。誕生日おめでとう。そして、毎日がまた別の素晴らしい秘密でありますように。
この報道は、いわゆる「エプスタイン・ファイル」をめぐる論争が激化する中で行われた。トランプ氏の保守的な支持層は、エプスタイン氏の少女売春組織に関与したとされる著名人の「顧客リスト」は存在しないとする司法省に対し、さらなる情報公開を求めている。
トランプ氏、手紙の信憑性を全面否定
トランプ氏は、報道された手紙の信憑性を強く否定している。WSJの取材に対し、「これは私ではない。これは偽物だ。ウォール・ストリート・ジャーナルの偽記事だ」と断言。さらに、「私は人生で絵など描いたことはない。女性の絵は描かない」「私の言葉遣いではない。私の言葉ではない」と主張し、「他の皆を訴えたように、ウォール・ストリート・ジャーナルを訴えるつもりだ」と語った。
自身のSNS「Truth Social」でも、「彼(マードック氏)と彼の『ゴミの山』新聞であるWSJに対する訴訟で、ルパート・マードックを証言台に立たせるのが楽しみだ」と投稿。事前にマードック氏に「これは詐欺であり、この偽記事を掲載すべきではないと伝えた。しかし彼は掲載した。だから今、彼と彼の三流新聞を徹底的に訴えてやる」と、怒りを露わにしている。
フロリダで提訴、マードック氏も名指し
訴状はフロリダ州南部地区連邦地方裁判所に提出された。訴訟の相手方として、WSJの記者であるカディージャ・サフダール氏とジョー・パラッツォーロ氏に加え、親会社のダウ・ジョーンズ社、ニューズ・コーポレーション、そしてルパート・マードック氏個人も名を連ねている。請求内容には名誉毀損、暴行、中傷が含まれている。
ニューズ・コーポレーションの本拠地であるニューヨークではなく、フロリダで提訴された点も注目される。フロリダの陪審員は、ニューヨークよりも名誉毀損の主張に対して好意的な判断を下す可能性があると見られている。
JD・ヴァンス副大統領もこの報道に疑問を呈しており、「この手紙はどこにあるんだ?彼らが記事を公開する前に我々にそれを見せなかったと知って驚くだろうか?これがドナルド・トランプのように聞こえると正直に信じる人がいるだろうか?」とX(旧Twitter)に投稿した。
激化するトランプ氏とメディアの対立
今回の提訴は、トランプ氏によるメディアへの一連の法的措置の最新事例である。過去にはABCニュースやCBSニュースも訴訟の対象となった。最近では、パラマウント・グローバルが、同社の合併承認を得るための一環として、トランプ氏が起こした訴訟で1600万ドルの和解金を支払うことに合意している。
こうした動きはメディア幹部にも影響を与えており、ワシントン・ポストやロサンゼルス・タイムズが保守的な意見をより多く取り上げる方向にシフトするなど、報道姿勢に変化が見られる。
盟友と見なされてきたマードック氏のメディア帝国に対する今回の訴訟は、2024年の大統領選挙を前に、トランプ氏と大手メディアとの関係が新たな緊張関係に入ったことを示している。ニューズ・コーポレーションは、本件に関するコメントの要請にすぐには応じていない。