映画館での鑑賞体験を根底から覆す、新たなコンセプトの施設がニューヨークに誕生する。人気映画館チェーン「アラモ・ドラフトハウス・シネマ」の創業者であるティム・リーグ氏が手がける「メトロ・プライベート・シネマ」が、2025年8月下旬にもニューヨーク市チェルシー地区にオープンする予定だ。ストリーミングサービスの普及により変化を迫られる映画業界において、同施設は「特別な夜」を演出する高級プライベートシネマとして、新たな市場を開拓することを目指す。
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メトロ・プライベート・シネマが提供する新しい映画鑑賞のかたち
メトロ・プライベート・シネマは、これまでの映画館の常識とは一線を画す、完全プライベートな映画鑑賞体験を中核に据えている。施設内には4人から最大20人まで収容可能な個室シアターが20スクリーン用意されており、友人や家族、大切な人との特別な時間を過ごすために設計されている。
利用者は観たい映画を選び、専用のグルメメニューを注文し、自分たちだけの空間で映画の世界に没頭することができる。リーグ氏は「これは特別な夜のための外出だ。気軽に映画を観るなら既存の映画館に行けばいい。しかし、我々が創り出そうとしているのは、ディナーと友人、そして映画が融合した、非常に特別な体験だ」と語る。
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シェフが腕を振るうグルメと映画のマリアージュ
同施設のもう一つの大きな特徴は、その料理である。一般的な映画館で提供されるポップコーンやナチョスとは異なり、オープン時には旬の食材を活かした「晩夏のメニュー」や「ガーリックをテーマにしたディナー」などが用意される。前菜、メイン、デザートが映画の上映前にファミリースタイルで提供され、食事を存分に楽しんだ後に鑑賞が始まる。
さらに、『スーパーマン』や『パディントン2』、『グッドフェローズ』といった特定の映画タイトルに合わせてシェフが考案した「7つか8つの食と映画の冒険」と銘打った特別コースも提供される予定だ。これは、アラモ・ドラフトハウスで好評を博したフードイベントをさらに昇華させた試みである。
気になる料金体系と上映作品
この特別な体験の価格は、4人用シアターが4時間の利用で600となっている。食事は1人あたり50以上が別途必要となる。
上映作品は、『F1』や『スーパーマン』といった最新のブロックバスター作品から、『ドニー・ダーコ』(2001年)や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)といった旧作まで、多彩なライブラリから選択可能だ。また、追加料金を支払えば、ライブラリにない作品も手配してくれるという。
誕生の背景と今後の展望
この構想は、リーグ氏がまだアラモ・ドラフトハウスのCEOだった2016年頃、Homeawayの創業者ブライアン・シャープルズ氏との会話から生まれたという。自宅に立派なシアタールームを持つシャープルズ氏が、友人たちから頻繁に映画鑑賞会を頼まれる様子を見て、ビジネスチャンスを感じ取ったのがきっかけであった。
最初の実験的な施設は2017年に作られたが、計画が本格化したのは2021年頃からだ。リーグ氏は、自宅に十分なエンターテイメント設備を持つスペースがない住民が多いニューヨークの密集した都市環境が、このコンセプトの最初の場所として最適だと判断した。チェルシーでの成功を足がかりに、将来的には多店舗展開も視野に入れている。
アラモの鉄則を覆す「会話もスマホもOK」
特筆すべきは、アラモ・ドラフトハウスが「上映中の会話・携帯電話の使用禁止」という厳格なポリシーで知られているのに対し、メトロ・プライベート・シネマではそのルールが適用されない点だ。
リーグ氏は「認めるのは心苦しいが、テキストメッセージを送ってもいいし、会話もできる」と語る。完全にプライベートな空間であるため、どう過ごすかはお客次第。各部屋には専属のアテンダントが付き、あらゆるニーズに対応する。ただし、リーグ氏は「そうする人は、人としてちょっと残念だけどね」と冗談めかして付け加えた。
映画業界が大きな転換期を迎える中、メトロ・プライベート・シネマが提案する「高級でプライベートな映画体験」は、観客を再び劇場に呼び戻す起爆剤となるか、その動向が注目される。
ソース:Inside Metro Private Cinema, Tim League’s New Movie Theater Concept