2025年7月26日、若手映像クリエイターの登竜門として知られる「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025」のクロージング・セレモニーが開催され、コンペティション部門の各賞が発表された。最高賞である最優秀作品賞(グランプリ)には、茂木毅流監督と長澤太一監督による『水底(みなそこ)のミメシス』が輝いた。
7月18日から9日間にわたり開催された本映画祭は、今年で22回目を迎える。次代を担う新たな才能の発掘を目指し、国内から公募されたノミネート13作品が栄誉を競った。
目次
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025 受賞結果一覧
- 最優秀作品賞(グランプリ): 『水底(みなそこ)のミメシス』(監督:茂木毅流、長澤太一)
- SKIPシティアワード: 『長い夜』(監督:草刈悠生)
- 観客賞: 『ひみつきちのつくりかた』(監督:板橋知也)
- スペシャル・メンション: 『お笑えない芸人』(監督:西田祐香)
最優秀作品賞(グランプリ)は『水底のミメシス』
最高賞であるグランプリに輝いたのは、茂木毅流、長澤太一の両監督によるアニメーション作品『水底のミメシス』である。作品の持つ「強度」が審査員から高く評価された。
作品情報
- 監督:茂木毅流、長澤太一
- 声の出演:及川繕太郎、北口真央
- 2025年 / 日本 / 28分
茂木毅流監督 受賞コメント 「友達と手ぶらで帰るつもりでいた。アニメーションに興味があるというだけで自分のもとに集まってくれた30人ほどの仲間たちの想いが、トロフィーを持ってみると感じ取ることができ、彼らの想いをこの場で強く感じ、驚きと喜びで震えている。現在ウィーンにいる共同監督の長澤太一が引っ込み思案な自分を引っ張りだしてくれ。二人についてきてくれた仲間たちみんなでこの気持ちを持ち帰りたい。」
審査員 石川慶氏 コメント 「今回のコンペの中で、審査員三人が最も高く評価したのが『水底のミメシス』と『長い夜』。最終的に『水底のミメシス』を選んだのは、作品が持つ『強度』に圧倒されたから。荒削りだったり、言葉で説明しすぎていたりという欠点ごと、作品全体が押し切ってくる力があった。作り手としての迷いや葛藤が、むき出しのままぶつけられていることに強く心を動かされた。今、世の中には“声を失ってしまった映画”がたくさんある中、『水底のミメシス』には、その声が、生々しく、強く、確かにあった。」
SKIPシティアワードは『長い夜』
今後の長編映画制作への期待を込めて贈られるSKIPシティアワードは、草刈悠生監督の『長い夜』が受賞した。
作品情報
- 監督:草刈悠生
- 出演:原田光一、笠原一輝、黛果歩、和田紗也加、後藤健太
- 2025年 / 日本 / 116分
草刈悠生監督 受賞コメント 「映画は監督一人だけのものではない。観客席の出演者たちにも拍手を送ってほしい。名誉ある賞、映画祭開催、そしてクラウドファンディングで支えてくださった皆様へ感謝したい。トロフィーの重みから今後の長編映画への期待を感じている。『灯台守』への期待でもあると思い、素晴らしいメンバーと共にその期待に応えられるよう、これからも頑張りたい。」
審査員 水野詠子氏 コメント 「大切な人を失った時の悲しみとの向き合い方という普遍的なトピックに果敢にチャレンジし、現代の若者の生き様を通して孤独と葛藤を丁寧に描いた。草刈監督のシネマ的なアプローチを確かに感じ取ることができ、満場一致での受賞となった。この賞には、監督の2作目を是非観てみたいという審査員一同の強い希望が込められている。」
観客賞は『ひみつきちのつくりかた』
観客の投票によって選ばれる観客賞は、板橋知也監督の長編デビュー作『ひみつきちのつくりかた』が選出された。
作品情報
- 監督:板橋知也
- 出演:廣末哲万、藤田健彦、佐藤貢三、もりたかお、木寺響
- 2025年 / 日本 / 109分
板橋知也監督 受賞コメント 「コロナ禍の当時、暗いニュースや不幸な出来事が続く中で、『とにかく自分自身も観客も楽しめる、面白い映画を作りたい』という一心で制作した。観客賞という素晴らしい賞をいただけたこと、大変光栄に思う。」
審査員 クーン・デ・ローイ氏 コメント 「非常にエンターテイメント性の高い作品。完成度も高く、これが長編デビュー作だと聞いて驚いた。人間関係や葛藤、孤独といったテーマを鋭い観察眼で描き出す手腕を見事に発揮しており、より多くの人に見ていただくに相応しい映画だ。」
スペシャル・メンションに『お笑えない芸人』
審査員が特に言及したい作品として、西田祐香監督の『お笑えない芸人』がスペシャル・メンションとして選ばれた。
作品情報
- 監督:西田祐香
- 出演:吉野真生、村山暁、北野七海、松原康成(5月のアザラシ)、ケースケ(5月のアザラシ)
- 2025年 / 日本 / 76分
西田祐香監督 受賞コメント 「まさか賞をもらえると思わず、大変驚いている。監督としてここに立っているが、この映画を共に作り上げた11人の正規メンバーと共に立っている気持ち。改めてSKIPシティの映画祭は素晴らしい、埼玉が大好きになった。」
審査員 クーン・デ・ローイ氏 コメント 「誰しもが抱える『自分とは違う自分になりたい』という願望を、独創的に描いた。特に感銘を受けたのは、独自性のある編集で、この物語に独特の躍動感とエネルギーを与えていた。自らの選択を恐れず、映画界で自身の道を切り開くための勇気あるデビュー作として評価したい。」
審査委員長 石川慶監督による総評
最後に、審査委員長を務めた石川慶監督が総評を述べた。
「今年のコンペには、多様で高いレベルの作品が揃った。何よりも心を動かされたのは、それぞれの作品に込められた『この映画をどうしても撮りたい』という強い意志。そこらで何となく作られた“志のない”商業作品よりも、よほど存在価値がある映画たちであり、すべての作り手に、心からおめでとうと言いたい。 映画祭を通じて『川口』の名前がどれだけ広く知られているか、ということも、ぜひ地元のみなさんに知っていただきたい。今回、国際コンペティションが見送られたことで規模は縮小したが、どうかここで立ち止まることなく、外に開かれた国際的な映画祭として成長を続けていただきたい。」
石川監督は、映画が持つ本来の力と映画祭の本質的な役割に触れ、今後の映画祭への期待を語り、9日間にわたる映画の祭典を締めくくった。