グラミー賞受賞アーティストであるテイラー・スウィフトが、新作アルバム『The Life of a Showgirl』のプロモーションにおいて、従来のメディアの枠組みを完全に覆す新たな戦略を展開し、記録的な成功を収めた。彼女は自身の物語を、これまで以上に自らの手でコントロールしている。
伝統的メディアを回避した新たなプロモーション戦略
世界最大のポップスターであるテイラー・スウィフトは、恋人であるトラヴィス・ケルシーがホストを務めるポッドキャスト番組『New Heights』に出演し、キャリアにおいて最も率直でオープンなインタビューの一つに応じた。
これまでアーティストが新作を発表する際には、大手雑誌の表紙を飾ったり、テレビ番組でパフォーマンスを披露したりするのが一般的であった。しかし、スウィフトは今回、そうした主流メディアの慣例的な手法を一切用いず、完全に迂回する道を選んだ。
彼女ほどの知名度があれば、もはや伝統的なプロモーション戦略に縛られる必要はない。しかし、今回の『New Heights』への出演は、単なるメディア回避にとどまらず、彼女が自身の発信を完全にコントロール下に置くという、新たなスタンダードを確立したことを意味する。
ファンが熱狂した「素顔のテイラー」
今回のポッドキャスト出演は、恋人であるケルシーが側にいるという安心できる環境で行われた。そのため、スウィフトは非常にリラックスした様子で、ファンからは「いつものインタビュー用の声ではない」と評されるほど自然体な姿を見せた。
ソーシャルメディア上では、「この一日で、我々はこの女性について過去最高に多くのことを学んだ」「彼女がここまでオープンに話すのを聞けるなんて、まるで盗み聞きしているような気分だ」といった熱狂的なコメントが相次いだ。
スウィフトは、自身のコントロールを一切手放すことなく、かつてないほど多くの自身をファンに開示したのである。これは、彼女がいかに巧みに自身のイメージと物語を構築しているかを示す好例だと言える。
マーケティングとして記録的な大成功
この戦略は、マーケティングの観点から見ても圧倒的な成功を収めた。
ポッドキャストのプレミア配信は、YouTubeが2023年にポッドキャスト機能をローンチして以来、史上最多となる130万人のライブ視聴者数を記録。エピソード本編は、公開からわずか2日間で1500万回以上再生された。あまりのアクセスの集中に、プレミア配信の終盤にはサーバーが一時的にダウンする事態も発生した。
この成功を受け、世界中のニュースメディアも追随。彼女が語ったサワードウを焼く趣味といった些細な話題から、ケルシーとの馴れ初めに至るまで、その発言の一つひとつが熱心に記事化され、さらなる話題を呼んだ。
自身のレガシーを完全に掌握
ポッドキャストの中でスウィフトは、多くの新事実も明かしている。音楽業界史上最大のスキャンダルの一つとなった原盤権問題において、当初、兄と母親を代理人として交渉に送ったことや、新作で伝説的ソングライターのマックス・マーティンと再びタッグを組むことなどが語られた。
特に、今年5月に自身の全楽曲のマスター音源(原盤権)の所有権を完全に取り戻したことは、彼女のキャリアにおける大きな転換点である。「私がこれまでに作ったすべての音楽は…今や…私のもの」と、彼女は自身のウェブサイトで高らかに宣言した。
原盤権に加え、楽曲の出版権や自身のマネジメント会社も保有し、チームのほとんどは彼女自身の従業員である。スウィフトは、自身の音楽世界の完全な設計者となったのだ。
新作『The Life of a Showgirl』のリリースまで約2ヶ月。今回のポッドキャスト出演は、これから始まる壮大なプロモーションの序章に過ぎないだろう。しかし、この一件は「メディアはテイラー・スウィフトを必要としているが、彼女はもはやメディアを必要としていない」という事実を、これまで以上に明確に示した。