アルバニア政府は2025年9月12日、世界で初めて人工知能(AI)を「大臣」として閣僚に任命したと発表した。エディ・ラマ首相が率いる新内閣の一員として、汚職対策という重責を担う。この前例のない試みは、国内外から大きな注目を集めている。
世界初のAI大臣「ディエラ」誕生
アルバニアのラマ首相は、新内閣のメンバーとしてAIボット「ディエラ(Diella)」を任命した。ディエラはアルバニア語で「太陽」を意味する。ラマ首相はディエラについて「物理的には存在しない内閣の一員」と紹介し、その主な任務が「公共入札を100パーセント汚職のないものにすること」であると明言した。
伝統的な民族衣装をまとった女性としてスクリーンに映し出されるディエラは、長年アルバニアを悩ませてきた汚職問題に対する強力な解決策として期待されている。
アルバニアが抱える汚職問題とEU加盟への道
人口約280万人のバルカン半島に位置するアルバニアにとって、汚職は欧州連合(EU)加盟を目指す上での大きな障壁となってきた。特に公共事業の入札を巡る不正は、深刻な問題とされてきた。
最近の選挙で4期目の続投を決めたラマ首相率いる社会党は、5年以内のEU加盟を公約に掲げており、2027年までの交渉妥結を目指している。今回のAI大臣の任命は、汚職撲滅への強い決意を示し、EU加盟交渉を加速させる狙いがあるとみられる。
AI大臣の実績と法的地位への懸念
ディエラは、今年初めから公共サービスプラットフォーム「e-Albania」の仮想アシスタントとしてすでに活動を開始していた。公式発表によると、これまで約100万件のデジタル文書へのアクセスを支援し、36,600件のデジタル文書を発行、約1,000のサービスを提供するなど、具体的な実績を上げている。
しかし、その「大臣」としての法的地位については課題も残る。法曹界の専門家からは、ディエラの公式な地位を確立するためには、さらなる法整備が必要との指摘が出ている。また、野党・民主党のガズメンド・バルディ院内総務は、ディエラの閣僚就任は憲法違反であると主張。「首相の道化をアルバニア国家の法的行為に変えることはできない」とFacebook上で厳しく批判した。
期待と懐疑論、国民の反応は
ラマ首相は、AIであるディエラが誰かによって不正に操作されるリスクや、人間による監視体制がどのようになるのかといった詳細については明らかにしていない。
この画期的な試みに対し、国民の間では期待と同時に懐疑的な声も上がっている。Facebook上では「アルバニアではディエラ自身も腐敗するだろう」「結局、窃盗は続き、ディエラがその責任を負わされるだけだ」といったコメントも見られ、AIが本当に汚職を根絶できるのか、その実効性を疑問視する向きも少なくない。
世界初のAI大臣という試みが、アルバニアの長年の課題を解決する光明となるのか、それとも単なる政治的パフォーマンスに終わるのか、今後の動向が注視される。