世界最大級の音楽コンテスト「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」が、再び地政学的な問題に揺れている。2026年5月にオーストリアのウィーンで開催予定の大会を前に、複数の参加国がイスラエルの参加に反発し、不参加(ボイコット)も辞さない構えを見せている。主催者である欧州放送連合(EBU)は対応に苦慮しており、事態は混迷を深めている。
複数の放送局がイスラエル参加なら「撤退」を表明
最初に強硬な姿勢を示したのは、アイルランドの公共放送RTÉである。RTÉは先週、「ガザで続く悲惨な人命の損失を鑑み」、イスラエルが2026年大会への参加を許可された場合、コンテストから撤退する意向を明らかにした。
この動きにオランダの公共放送Avrotrosも続いた。同局は「人々の苦しみ、報道の自由の抑圧、そして政治的介入は、公共放送の価値観と相容れない」との声明を発表し、アイルランドの決定に同調する姿勢を示した。
さらに、スロベニアのRTVSLOやアイスランドのRÚVからも同様の懸念が表明されており、周辺国でも追随を求める声が上がるなど、イスラエルの参加に反対する動きは広がりを見せている。
主催者EBUは「意見収集中」と慎重な姿勢
一連の動きに対し、主催者であるEBUは「中東で進行中の紛争に関する懸念と深く根差した見解を理解している」と声明を発表。しかし、現時点では最終的な決定は下されておらず、加盟放送局から「ユーロビジョン・ソング・コンテストにおける参加と地政学的緊張の管理方法について意見を収集している」段階であると説明した。
また、一部で報じられた「EBUがイスラエルに対し、一時的な撤退か中立旗の下での参加を提案した」という情報については、「事実ではない」と明確に否定している。
各国放送局が来年の大会への参加を最終的に決定する期限は12月中旬に設定されており、EBUは「各加盟局が参加の是非を決定する権利を持っており、我々はそのいかなる決定も尊重する」としている。
2025年大会でも高まっていた対立
イスラエルの参加を巡る対立は、今年開催された2025年大会でも顕著であった。大会期間中、イスラエルの参加に反対する大規模な抗議活動やボイコット運動が各地で発生。大会前には元出場者72名がイスラエル国営放送(Kan)の除外を求める公開書簡に署名したほか、スペインのペドロ・サンチェス首相や2025年大会の優勝者であるオーストリアの歌手JJも同調していた。
イスラエル代表のユヴァル・ラファエルは最終的に2位という結果を残したが、そのパフォーマンス中には抗議者がステージに乱入しようとする騒動も起きていた。
「音楽の祭典」に影を落とす地政学的問題
ユーロビジョンが地政学的な問題に直面するのはこれが初めてではない。2022年にはウクライナに侵攻したロシアが大会から除外されている。しかし、今回は加盟国間で意見が大きく割れており、全ての国を満足させる解決策を見いだせない主催者にとって、事態は極めて深刻である。
かつてはABBAやマネスキンといった世界的なスターを輩出し、ヨーロッパの多様な音楽文化を祝う「喜びの祭典」として知られてきたユーロビジョン。しかし、激化する国際紛争の波は、世界最大のライブ音楽コンテストのあり方そのものを問い直す事態に発展している。
ソース:Eurovision “Still Gathering Views” as Boycotts Threatened Over Israel