[PR]

イスラエル・アカデミー賞、反戦映画が席巻 政府は反発し資金停止を発表


イスラエルのアカデミー賞とされるオフィール賞で9月16日、パレスチナ人の少年を主人公にした反戦映画『The Sea』が作品賞を含む主要5部門を独占した。この結果、同作はイスラエルのアカデミー賞国際長編映画賞部門の代表作品となることが決定した。しかし、授賞式での反戦的なスピーチを受け、イスラエル政府は同賞への資金提供を打ち切ると発表し、国内の映画界に大きな波紋を広げている。

授賞式は抗議の場に 受賞者が訴えた平和への願いと戦争への反対

シャイ・カルメリ=ポラック監督の『The Sea』は、ラマッラー近郊の村に住むパレスチナ人の少年が、海を見るためにテルアビブを目指す物語。同作は作品賞のほか、脚本賞、主演男優賞、助演男優賞、作曲賞を受賞した。

授賞式は、ガザでの戦争に対する抗議のメッセージが表明される場となった。パレスチナ人のプロデューサー、バハー・アグバリヤ氏は「戦争の音が人間の声を消そうとする暗い時代において、この受賞は当たり前ではない。この映画は人道と映画への愛から生まれ、すべての子どもが平和に生き、夢を見る権利があるというメッセージを伝えている」とスピーチした。

主演男優賞に輝いた13歳のムハンマド・ガザウィ氏もアラビア語で「世界中のすべての子どもたちが、戦争なしに生き、夢を見る同じ機会を持つことを願う」と語った。

一方、助演男優賞を受賞したハリファ・ナトゥール氏は授賞式を欠席。「ガザへの軍の侵攻と、私を大いに怖れさせるジェノサイドの後では、恐怖の大きさを表現する言葉が見つからない。映画や演劇さえも二の次になる」とのメッセージを寄せた。

また、最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞した『Letter To David』のトム・ショヴァル監督は、人質の写真を手に「すべての人質が帰還して初めてこの映画は完成する」と述べ、戦争の終結を訴えた。

文化大臣が「恥ずべき」と非難、イスラエル映画界に広がる波紋

この結果に対し、イスラエルのミキ・ゾハル文化大臣は授賞式を「恥ずべきもの」と激しく非難し、政府資金の提供を打ち切る意向を表明した。「2026年度予算から、この哀れな式典はもはや税金で賄われることはない。私の監視下で、イスラエル国民が英雄的な兵士たちの顔に唾を吐きかける式典のために金を払うことはない」と声明を発表した。

これに対し、イスラエル映画アカデミーのアサフ・アミール会長は「イスラエル映画は、痛みを伴う複雑な現実に対応し、それと関連していることを再び証明した」と反論。「イスラエル政府による映画と文化への攻撃、そして国際的な映画界の一部からのボイコットの呼びかけに直面する中で、『The Sea』の選出は力強く響き渡る応答だ。ユダヤ系とパレスチナ系のイスラエル人の協業で生まれたアラビア語映画が、オスカーの舞台でイスラエルを代表することを誇りに思う」と述べ、映画界の立場を鮮明にした。

今回の事態は、映画と政治、そして表現の自由を巡る議論を激化させており、今後のイスラエル映画産業の資金調達や国際的な活動への影響が懸念される。

ソース