米OpenAI社が発表した最新のAI動画生成モデル「Sora 2」を巡り、その著作権ポリシーが大きな波紋を広げている。当初、著作権者が自らの作品の使用を拒否するには申し出が必要な「オプトアウト」方式を提示し、「泥棒の論理だ」と厳しい批判が噴出。これを受け、同社は一転して権利者が使用を許諾する「オプトイン」方式への変更を発表した。しかし、この方針転換後も、AIの学習データに関する根本的な問題は解決されておらず、エンターテインメント業界、特にハリウッドの懸念は深まるばかりである。
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「泥棒の論理」と批判されたオプトアウト方式
OpenAIが「Sora 2」のリリースと同時に発表した当初のポリシーは、著作権者にとって衝撃的なものだった。それは、もし自身の作品をSoraのアプリケーション内で使用されたくなければ、権利者側が能動的にその旨を申し出る必要があるという「オプトアウト」方式だったからである。
この方針に対し、法律専門家からは厳しい批判が相次いだ。KHIKS法律事務所のレイ・サイリー弁護士は、「泥棒が『止めてと明確に言われなかったから、家にあるものを全て盗む権利がある』と主張するのに等しい」と指摘。プライヤー・キャッシュマン法律事務所のサイモン・プルマン弁護士も、「彼らは事実上、『あなたが作品を創造した瞬間、我々にはそれを使用する権利がある。あなたが積極的に拒否しない限りは』と宣言しているのと同じだ」と述べ、テクノロジー企業が法整備に先んじて既成事実化を図ろうとする典型的な動きだと分析した。
批判を受け「オプトイン」へ急遽方針転換
「サウスパーク」のカスタムエピソードや、「プライベート・ライアン」にピカチュウが登場する動画など、「Sora 2」で作成された動画がソーシャルメディアに溢れかえる中、OpenAIのサム・アルトマンCEOは方針転換を表明した。
アルトマン氏は自身のブログで、「多くの権利者から、この新しい形の『インタラクティブなファンフィクション』に興奮しており、新たなエンゲージメントが多くの価値をもたらすと考えているとの声を聞いている。しかし、彼らは自身のキャラクターがどのように使用されるか(全く使用されないことも含め)を特定する権利を望んでいる」と述べ、既存キャラクターの生成については、権利者が使用を許諾する「オプトイン」方式に変更することを明らかにした。
これは、個人の「肖像(likeness)」の扱いに近いものとなる。Sora 2の新機能では、ユーザーが自分自身をAI生成ビデオに登場させることが可能だが、他人が自分の肖像を使用する許可はいつでも取り消すことができる。
ポリシー変更でも消えない「学習データ」への根本的な疑念
しかし、このオプトイン方式への変更も、根本的な問題を解決するものではないとの指摘は根強い。最大の問題は、「出力」と「入力」の違いである。
権利者がオプトインをせず、自身のキャラクターがSora 2によって「出力(生成)」されることを防げたとしても、そのキャラクターがSoraモデルの「入力(学習データ)」として既に使用されている可能性は排除できない。つまり、Soraがダース・ベイダーを生成することはできなくても、ダース・ベイダーから学習して他のものを生成している可能性は残る。そして、権利者側がOpenAIの学習データセットを確認し、自らの作品が使用されていないことを検証することは、事実上不可能に近い。
AI映画スタジオAsteriaのCEOであるブリン・ムーサー氏は、「それは策略だ」と断言する。「フィルターをかけられるからといって、そのデータセットに(著作権物が)含まれていないことにはならない」と述べ、スタジオ側は生成の可否ではなく、学習データに使用されたかを問うべきだと主張している。
OpenAIの真の狙いはハリウッドではなくSNSか
ムーサー氏は、Sora 2のリリース自体が「OpenAIがハリウッドに関心がないことの表明だ」と分析する。同氏によれば、Sora 2が生成するコンテンツは、映画やテレビ制作に使える高品質なツールというよりも、ソーシャルメディア向けのバイラルコンテンツやミームの大量生産を目的としている可能性が高いという。
「これは、ハリウッドのニーズや、アーティストがAIに取って代わられることへの懸念、著作権問題を気にしていないというサインだ」とムーサー氏は語る。AIを倫理的に活用し、映画制作プロセスに組み込もうとするAsteriaのような企業にとって、OpenAIの動向は業界全体のAIに対するイメージを悪化させかねない、と危機感を募らせている。
エンターテインメント業界は今、まさに岐路に立たされている。ギルドや権利者団体は、法廷での判断を待つのではなく、自ら業界の基準を設け、この新たなテクノロジーの波にどう立ち向かうべきか、真剣な議論と行動が求められている。