[PR]

レビュー:TBS日曜劇場『ザ・ロイヤル・ファミリー』第一話 – 人は、馬は、何のために走るのか。魂を揺さぶるヒューマンドラマが誕生


「なんのために人は生きるのか、なんのために馬は走るのか」

この普遍的な問いが、競走馬という美しくも厳しい世界を舞台に、深く、そして熱く描かれる。日曜劇場の新たな傑作の誕生を確信させるドラマ『ザ・ロイヤル・ファミリー』が、ついに幕を開けた。息を呑むほどに美しい北海道の自然、アドレナリンが沸騰する大迫力の競馬シーン、そして実力派俳優たちが織りなす魂の芝居。そのすべてが、私たちの心の最も深い場所を揺さぶってくる。

数字だけを追う日々に心を失った男と、数字では測れない価値を信じる男

物語の主人公は、妻夫木聡が演じる税理士・栗須栄治。仕事への情熱を失い、リストラの危機に瀕する彼の日常は、まるで色褪せた写真のようだ。そんな彼に、クライアントである人材派遣企業ロイヤルヒューマンの部長・山王優太郎(小泉孝太郎)から、ある特命が下される。それは、優太郎の父であり、社長である山王耕造(佐藤浩市)が手掛ける競馬事業部の内情を探ること。発足以来、赤字を垂れ流し続けるこの事業は、会社のお荷物と見なされていた。

耕造による経費の私的流用の証拠を掴めば、会社に存続の道が開ける。藁にもすがる思いで北海道へ飛んだ栗須だったが、そこで彼を待っていたのは、常識も理屈も通用しない絶対的なカリスマ・山王耕造その人だった。

「時間はお金で買える」「夢はあるか」「馬から走ることを奪ったら、その先に何があるか考えたことがあるか」

耕造から矢継ぎ早に投げかけられる言葉は、数字という絶対的な指標だけを信じて生きてきた栗須の価値観を根底から揺さぶる。佐藤浩市の圧倒的な存在感が光る。その眼光、声のトーンひとつで、豪放磊落でありながら、馬と人に対する深い愛情を持つ男の魂を見事に体現している。

北海道の雄大な大地で知る、命の価値と人の想い

耕造に付き従い、広大な牧場を巡る中で、栗須はこれまで知らなかった世界に触れていく。足が曲がり、競走馬としては致命的な欠点を抱えた馬をあえて買い取る耕造。彼の口から語られる「数字じゃ測れない価値」という言葉。それは、一頭の馬の背景にいる、多くの人々の祈りや夢、そして人生そのものだった。

かつての仲間・野崎加奈子(松本若菜)との10年ぶりの再会も、栗須の心を動かす大きなきっかけとなる。実家の牧場を継ぎ、懸命に馬と向き合う彼女の姿や耕造の生き方は、栗須に亡き父の言葉を思い出させた。

「数字を追うだけじゃなく、誰かに感謝される仕事をしろ」

いつしか栗須は、赤字部門のリストラという当初の目的を忘れ、行き場を失いかけた馬たちのために奔走し始める。それは、まるで自分自身の生きる道を探し求めるかのような、切実な叫びだった。

ラスト10分の疾走感と、涙腺を崩壊させる「ありがとう」

第一話のクライマックスは、新潟競馬場で開催された一戦。栗須の尽力によって出走にこぎつけた競走馬・ロイヤルファイトが、ターフを疾走する。固唾をのんで見守る栗須、耕造、そして馬に人生を託した牧場主。ゲートが開いた瞬間から、視聴者の心臓の鼓動が馬の蹄音と重なる。

最後の直線、大外から追い込んでくるロイヤルファイトの姿に、いつしか栗須は我を忘れて叫んでいた。結果は、惜しくも2着。しかし、レース後、牧場主からかけられた心からの「ありがとうございました」という一言が、栗須の心を救う。父の言葉が、今この瞬間に現実のものとなったのだ。仕事への誇りを失い、父の死さえも過去として葬り去ろうとしていた男が、涙ながらに自らの後悔を吐露し、再び前を向く決意をする。この妻夫木聡の胸を打つ熱演には、誰もが涙を禁じ得ないだろう。

新たな人生のゲートは開いた

「俺のとこに来い。ただし、絶対に俺を裏切るな」

耕造の言葉を受け、栗須の新たな人生がスタートする。ラストシーンで映し出された2030年の写真に写る謎の青年(目黒蓮)は一体何者なのか。多くの謎と、有馬記念制覇という壮大な夢への期待を残し、物語は次週へと続く。

塚原あゆ子監督のエモーショナルな演出も光り、単なるサクセスストーリーではない、深く重厚な人間ドラマとなりそうな一作だ。この秋、必見のドラマとなる予感をさせて第一話は幕を閉じた。