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野木亜紀子脚本『ちょっとだけエスパー』第一話レビュー:大泉洋の「悲哀」と「巻き込まれ」が冴える、ささやかな救済の序章


野木亜紀子脚本の新作ドラマ『ちょっとだけエスパー』が始まり、その独特な世界観に早くも引き込まれている。主演の大泉洋演じる主人公・文太は、まさに「はまり役」だ。人生のどん底でうだつの上がらない中年男性の悲哀と、次々と奇妙な状況に放り込まれる「巻き込まれ」体質を、これ以上なく見事に体現している。大泉洋がなにかよくわからない事態に巻き込まれると安心する。

氷河期世代が世界を救う?

物語は、文太(大泉洋)がVRゲームでビルから飛び降りるシーンから始まる。ゲームに負け、漫画喫茶で寝泊まりする彼の現実は、ゲームとさほど変わらない絶望の淵にあった。彼は氷河期世代であり、過去には会社への忠誠を信じて身を粉にして働いたが、結果として「ちょっとした経費の横領」で逮捕され、会社を追われた。妻とは離婚し、賠償と慰謝料で無一文。まさに人生詰んだ状態である。

そんな彼に、謎の会社「ノナマーレ」から面接の連絡が来る。立派すぎるビルに訝しみながらも面接に臨むと、そこにいたのは社長の兆(岡田将生)だった。兆は、文太の過去を知りながらも「イノベーションを応援する」と言い、最終面接として赤と青のピルを差し出す。文太がそれを飲むと、兆は告げる。「たった今からあなたはエスパーです。ただし、ちょっとだけ。そして、世界を救ってもらいます」。

地味なミッションで世界が救える?

こうして文太は、日常の「ちょっとした」ミッションをこなすことで世界を救うという、にわかには信じがたい「仕事」に従事することになる。与えられた豪華な社宅には、なぜか仮の妻・四季(宮﨑あおい)まで用意されていた。四季は文太を「文ちゃん」と呼び、完璧に「倦怠期の妻」を演じ(あるいは本気でそう思い込み)、文太を戸惑わせる。

文太に与えられるミッションは、「外出する鈴木琢磨に傘をもたせる」「目覚まし時計の時刻を5分早める」「ある男のスマホの充電をゼロにする」といった、拍子抜けするほど地味なものばかりだ。だが、この過程で文太は、自身に「人に触れると心が読める」という「ちょっとだけ」の能力が備わったことに気づく。

一見意味不明なミッションも、実は半蔵(宇野祥平)、円寂(高畑淳子)、桜介(ディーン・フジオカ)といった他の「ちょっとだけエスパー」仲間たちに陰ながらサポートされていた。そして、ミッションの結果、対象者たちがささやかながらも幸せになったという報告が届く。桜介の能力が「花を咲かせる」だけであるように、彼らの力はあまりに小さい。

世界を救うには、人を愛してはいけない?

第一話を終えた時点では、この「日常のちょっとした変化」が、どうやって「世界を救う」という壮大な目標に結びつくのか、まったくわからない。しかし、だからこそ引き込まれる。野木脚本は、氷河期世代の報われなさや現代人の抱える孤独といった社会的なテーマを織り込みながら、荒唐無稽な設定にリアリティとユーモアを与えている。

完璧すぎる妻・四季の謎、文太たちを監視する市松(北村匠海)の存在、そして「人を愛してはいけない」というルール。多くの謎を残しつつ、大泉洋の戸惑いと悲哀に満ちた演技が光る幕開けとなった。これからの展開が大いに楽しみである。