フロリダ州の映画産業振興団体である「Film Florida」は、世界最大のオンライン・エンターテイメント教育プラットフォーム「Stage 32」と提携し、フロリダ州全域を対象とした制作スタッフ(ビロウ・ザ・ライン)の認定プログラムを立ち上げることを発表した。
この提携は、2026年以降に期待される州の税制優遇措置の拡大と、それに伴う映画・テレビ制作の急増を見据えたものである。プログラムの目的は、即戦力となる大規模なスタッフ基盤を事前に構築し、州内での制作活動が活発化する際に迅速に対応できる体制を整えることにある。
制作急増に備える人材育成パイプライン
フロリダ州では過去、2010年代に『マジック・マイク』やA24製作の『スプリング・ブレイカーズ』『ムーンライト』といった作品の撮影が行われ、小規模ながらルネサンス期を迎えた。しかし、近年は州全体の税制優遇措置がなく、その勢いは鈍化していた。
一方で、ニュージャージー州ではパラマウントやNetflixによる新スタジオ建設など大規模な投資が急速に進んでいる。フロリダ州も同様の投資を呼び込むため、まずは人材基盤の整備から着手する形だ。
今回の提携により、将来的な制作需要の受け皿となる「準備万端なスタッフ」を育成するパイプラインが構築される。
業界のベテランが指導する実践的プログラム
本認定プログラムは、映画・テレビ制作における主要な職務を幅広くカバーする。対象となるのは、ラインプロデューサー、ロケーション管理、ポストプロダクション・スーパーバイザー、制作会計、助監督、制作アシスタント(PA)、制作コーディネーター、スクリプト・スーパーバイザーなどである。
トレーニングはオンラインコースと対面式のワークショップを組み合わせて実施される。
講師陣には、第一線で活躍する業界のベテランが集結した。『ザ・ディプロマット』『フォッシー&ヴァードン』などを手掛けたポストプロダクション・プロデューサーのブラッド・カーペンター氏、『Babygirl』のポストプロダクション・スーパーバイザーであるレスリー・カバーズ氏、パラマウントのシニア・プロダクション・ファイナンス・マネージャーであるシャロンダ・ウェア氏、DGA(全米監督協会)助監督のコーリー・ポラード氏(『SEAL Team』)、『バービー』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のロケーション・マネージャーを務めたミランダ・カーネサル氏らが指導にあたる。
フロリダ州の現状と将来性
現在、フロリダ州には州全体の統一された税制優遇措置は存在しない。しかし、セントピート/クリアウォーター、タンパ、ジャクソンビル、ブロワード郡といった地域の管轄区域が独自にインセンティブを提供しており、その総額は累積で3,000万ドル以上にのぼる。中には、1つの作品に対して最大200万ドルの優遇措置を認める地域もある。
特にタンパベイ地域は、生涯学習チャンネルやホールマーク・チャンネルのテレビ映画制作地として人気があり、全米でも有数のコマーシャル撮影地となっている。
さらに、インディペンデント作品の制作も活発化しており、トッド・ワイズマン・ジュニア監督によるフロリダ西部劇小説『A Land Remembered』のインディーズTVシリーズ化が2026年の制作開始を目指して計画されている。
こうした動きに加え、将来的に州全体での新たな税制優遇措置が導入される可能性が取り沙汰されており、今回の人材育成プログラムは、その受け皿として機能することが期待される。
先行プログラムの成功と関係者の声
この州全体のプログラムに先立ち、タンパベイ地域では「Film Tampa Bay」コミッショナーであるタイラー・マルティノリッチ氏の協力のもと、制作アシスタント(PA)に特化した試験的プログラムが実施され、すでに成功を収めている。同プログラムでは、撮影現場でのプロトコル、書類作成、コラボレーションなど、PA業務に必要なすべてが網羅された。修了者はStage 32の認定ポータルに登録され、州内外の関連プロダクションとマッチングされる仕組みとなっている。
Film Floridaのエグゼクティブ・ディレクターであるジョン・ラックス氏は次のように述べている。 「Film Floridaは、Stage 32と提携し、会員にワールドクラスのトレーニングを提供し、フロリダの映画産業を向上させられることを嬉しく思う。Stage 32の認定プログラムへのアクセスを提供することで、我々は映画コミッションや関連組織が、タンパベイでのエキサイティングなプログラムを皮切りに、強固で熟練した労働力を構築できるよう支援していく」
Stage 32のマネージング・ディレクターであるアマンダ・トニー氏も、以下のようにコメントしている。 「Stage 32は、Film Floridaと協力し、フロリダの制作エコシステムを強化できることを光栄に思う。世界中の50以上のフィルムコミッションで人材育成を成功させてきた実績と、セントピート/クリアウォーターでのインパクトあるプログラムの経験を経て、この取り組みをタンパベイで開始し、Film Floridaと共に州全体の制作スタッフの機会を拡大できることに興奮している」
アトランタ(ジョージア州)から大手スタジオ作品が流出し、テキサス州やニュージャージー州が新たな制作拠点として台頭する中、フロリダ州がこの人材育成プログラムをテコに、再び全米の主要な撮影地としての地位を確立できるか注目される。
