リアルサウンド映画部に、『化け猫あんずちゃん』のレビューを書きました。
『化け猫あんずちゃん』は驚くほどに山下敦弘映画だった 実写×アニメの良さが活きた快作|Real Sound|リアルサウンド 映画部
山下敦弘監督が役者とともに撮影した実写映像を、久野遥子監督がロトスコープでアニメーションにしていくという手法で作られた本作。そのためかアニメーション作品であっても山下監督のテイストが存分に発揮された作品になっています。
映像のリズムみたいなものが完全にいつもの山下映画でしたね。そのうえにアニメーションの面白さを足すことに成功しているといった感じの作品で、実写とアニメーション両方の良さが打ち消し合うことなく共存した素晴らしい作品でした。
記事ではロトスコープの歴史と久野監督のスタイルを確認した上で、山下監督のセンスについて書くという構成にしました。物語も面白いですし、この夏の注目作です。
以下、原稿作成時のメモと構成案。
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Thesis
実写とアニメをつなぐロトスコープの生み出したもの、
実写の山下監督のセンスと久野監督のセンス、どういいとこどりされているのか
Point
ロトスコープとは?・・・歴史と久野監督の使い方
山下監督のテイストが思った以上に出ている。・・テンポ間など
アニメ的良さについて
Intro
化け猫あんずちゃんは映像のあり方について考える好材料
そのカッティングも芝居の間合いも実写映画監督の山下氏のものであるが、運動の快楽性は見事にアニメーションの面白さが詰まっている。
デフォルメの効いたキャラクターデザインに巧みな類型的でないが、アニメーションの動かし方としての省力と強調が随所に効いているうえに、同時録音の現場の音が心地よりリアル空間を創出している。
実写の面白さとアニメの面白さがどちらも活かされた作品
Body1ロトスコープとは何か
フライシャー兄弟の開発
フライシャー兄弟は実写とアニメーションの融合する作品を多数生み出した。
なぜロトスコープを生んだのか・・・いるか?フライシャー兄弟の「インク壺」シリーズ――実写とマンガ絵アニメーションを重ね合う技術と虚構性 – メディア芸術カレントコンテンツ
このロトスコープを発明したのが、フライシャー兄弟である。ロトスコープは当初、絵を速く巧く描くことのできる人材が少なかった同時代の状況に鑑み、滑らかなアニメーションを容易に実現するために企図された技術であった。
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フライシャー兄弟は、実写映像の中にアニメーションキャラクターが動く『インク壺』シリーズでこの技法を編み出した。実写とアニメーションの境に敏感な作家だった。
ロトスコープは今日でも使用される技術だ。
近年では、悪の華、音楽、花とアリス殺人事件など
フルで作品全てをロトスコープする作品は多くないが、ピンポイントの特定のシーンで使用される例はある。
実際、ロトスコープでアニメを作る動機は様々あるが、これをあえて利用する場合、より生々しさを求める場合は多い。
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しかし、ロトスコープは生身の身体動作を写し取るという性質上があるので、時に不気味の谷問題を生じることもある。
それはこのデジタル技術版といえるモーションキャプチャ技術も含めて、アニメーションとして動きをどう取捨選択していくのかにセンスが要求されることになる。
岩井澤監督の『音楽』はシーンによってその生々しさの度合いに変化させることで、劇的な効果を生んでいる。日常シーンはシンプルにデフォルメしたキャラを大きく動かさずにやり、フェスのシーンでは髪の毛一本いっぽんまで描き写すというこだわりようで、パワフルな効果を生んでいる
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要は、アニメーターの塩梅で動きを整理する点にロトスコープのセンスが問われる。
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久野監督は、この点に極めて自覚的かつ、ロトスコープのポテンシャルを押し広げようとする作家だ。
久野監督のその姿勢が端的に表れた作品が短編のSpredだ。
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NHKの番組の企画で作ったものですが、当時ロトスコープに苦手意識を持っている人に会う機会が多かったので、絵のデフォルメ次第でこれだけ幅のある表現が可能になるんだということを、一本の作品で証明しようと思ったんです。 岩井澤健治×久野遥子が語り合う、『音楽』に詰まったロトスコープアニメの可能性|Real Sound|リアルサウンド 映画部
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また、対象を赤ん坊にしたのは、
映画には偶然による奇跡ってあると思うんです。商業アニメの作り方だとそれが起きにくいとは思いますね。でも、ロトスコープはアニメーションでアクシデントを起こすために有効だと思います。『Spread』で赤ちゃんを撮ったのはそのためです。赤ちゃんは段取り通りに動きませんから。岩井澤健治×久野遥子が語り合う、『音楽』に詰まったロトスコープアニメの可能性|Real Sound|リアルサウンド 映画部
久野監督のロトスコープの使い方
具象も抽象もできると久野監督は語る
どの程度、抽象化するのかの部分で、久野監督の経験がかなり活かされた作品
あんずちゃんは猫である。人間たちもかなりデフォルメを聞かせている。
線をかなりシンプルにしているので、動きが際立つ、芝居を見せるアニメーションとして成立している
Body2 山下監督の作品として
山下監督が実写の撮影をして、ロトスコープでアニメにしていく作業となったが、思った以上に山下監督のテイストが感じられる作品でもある。
間や基本的な構図、テンポ間やカットのつなぎ方などはほとんど山下テイストを感じる。
題材的にも駄目な大人を愛らしくみせるのは山下監督の特徴で、こまっしゃくれた子どもも描くのが上手いのはこれまでの作品で証明されている。
そのテイストがアニメになっても消えていない。アニメのキャラに置き換えてデフォルメすることで、その長所がさらに活かされているとも思える。
山下監督評価
くりいむレモン 新作情報 ・・台本通りに撮ると山下監督
青土社 ||ユリイカ:ユリイカ2011年6月号 特集=山下敦弘
作品に使われている音の多くは現場の同時録音の音も使っているため、映画には現場の空気がそのまま流れる。
この空気感はまぎれもなく山下映画そのものであり、アニメーションがその魅力を消していない点で、面白い。
実写の映画作家がそのテイストを維持してアニメーションを作れるスタイルと言える。3DCGのモーションキャプチャとも少し違う感覚がここにはありそう。
Body3 アニメ的な見どころ
長く回して芝居で魅せるスタイルの実写映像を、逃げずに芝居で魅せていく。
歩き方ひとつとっても、絵にすることで、人の揺らぎがよく出ている。
東京で橋の上で歩くあんずちゃんとかりん。かりんの歩き方は全くまっすぐではない、左右にゆらゆらしながら歩くのが、アニメでは強調される。。それが感情表現として大きく貢献している。
かりんの表情が多彩で類型的でないのは、むしろロトスコープの強みがでている。
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役者の芝居が活かされているが、そのものではない、アニメーターが映像を再解釈して、どの程度、芝居を拾い、拾わないのかの取捨選択に面白さがある。
フランスのMIYUプロダクションによる背景も見事で、日本の地方の町を美しく描いている。
このまったりとした空気感において、同時にひと夏のきらびやかな体験にも見えるのは、美しい美術の力が大きい。実写ではない筆の力で、世界がこう見えていると主張することができている。
ボナールの影響。緑には黄色を混ぜて光がたくさん当たっている印象を与えている。日本の夏は(特に昨今)、もっとべとついた感じなのだが、それを感じさせないさわやかさがあり、ここに特別感の秘密がある。
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シンエイ動画のテイストも随所に活かされているのも、いい。カーチェイスのシーンはクレヨンしんちゃんを彷彿とさせる。
実写の監督のらしさを消さずに、アニメーションの快楽も存分に含んだ作品になっている。
メモ
変容するロトスコープ | MACC – Media Arts Current Contents
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メモ終わり。
久野監督は、以前に岩井俊二監督の『花とアリス 殺人事件』のロトスコープも担当しているので、実写の監督と組んで仕事するのに慣れているのかもしれません。こういう作品をもっと観てみたい、いろんな実写監督と組んでアニメーションの世界にどんどん新鮮な風を入れていってほしいなと思います。
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