リアルサウンド映画部に、『チ。-地球の運動について-』のレビューを書きました。
『チ。』主人公が交代していく“真意”とは? 反知性の象徴となったノヴァクの役割|Real Sound|リアルサウンド 映画部
テレビアニメの1クール目が終了というタイミングでの掲載となるので、これまでの展開を振り返りながら、本作の特徴と構成のユニークさ、現代社会に対してどんなことを伝えているのかを書いてみました。
当事者性というわけではないですが、自分のライターとして文章を世の中に残している者として、この作品には勇気づけられるところがあります。その実感も込めて書いてみようと思いました。
構成の話については、アニメ!アニメ!の敵役連載でノヴァクを取り上げた原稿と、一部重なる部分があります。主人公は交代し、悪役のノヴァクは交代していかない点ですね。やはり、この構成は非常に重要で、作品のテーマと直結していると思います。
以下、原稿作成時のメモと構成案。
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受け継げることの喜び
受け継がれないでずっと悪役がノヴァクであるという構図
言葉を残す、受け継がれること、その意思自体が主人公
知性、そのものが作品の中心にある?
Point3つ
なぜ主人公は変わり続け、悪役のノヴァクは変わらないままか、、その構造自体が伝えるもの
言葉を残すということについて、
歴史を描くとは、どうあるべきか。。。犬王を参照
カメラ演出についてはどうするか・・・空を見上げる時に覚える感動、ローポジションカメラの多様は、この感動を具現化するため
Intro
チ。
主人公が交代していくことに特徴がある作品。
それぞれの主人公の物語には独立しているが地動説を巡る一本の壮大な物語のように見える
body1 なぜ主人公が交代していくのか
何を伝えようとしているのか、その構成によって
受け継がれる意思そのものが、本当の主人公
対する悪役のノヴァクはずっと彼のまま、変わらない、誰にも受け継がれない。対照的な構図を描いている。
これはなぜか。
知性は流行り病のように増殖する。
修道士、学のない者、女性、異なる人種の人などいろいろな人に伝染していく好奇心や探究心、知性。
↓
これが作品の核
作品の核の対抗軸として、受け継がれない存在のノヴァクがいる。
Body2受け継ぐ媒介としての言葉。文字は奇蹟。
↓
僕も文字をここに紡いでいる。広告だらけのウェブに文字を残して何になるのかとやさぐれる瞬間が増えてるのだが、本作を見ると、残しておこう、か細くても希望はあるのだと思いたいと感じる
オクジ―は文字を読めなかった。地動説に心打たれて、文字を習い物語を、自分の感動を残そうとする。
その感動を記した本は25年後に誰かを動かず原動力となる。
アニメは感動を説得力あるものにするローポジションのカメラを採用。できるだけ空が写り込むような構図を志向している。
主人公たちが見上げる空が美しいことが肝要な作品。ラファウもオクジ―も後の主人公も空への感動を胸に死んでいく。
Body3 歴史を描く時の姿勢
正確な歴史を描写しているわけではない、
だが、これらの出来事が本当になかったのだと切り捨てるのもおかしい。
『犬王』の制作態度、湯浅さんは歴史に残っていない事実の方が多いのだ、と言っていた。
アニメ監督・湯浅政明が『犬王』で考えた想像力の大切さとは | JFF Theater
湯浅:記録や証言などでわかっていることも大事ですが、歴史はそれだけじゃないはずだと思うんです。たとえば、そのへんの広場で演奏されている音楽なんてほとんど記録されていないでしょう。それを、記録がないから存在しなかったと決めつけるのは絶対に良くないと考えていて。
湯浅:何万年もの人類の歴史、何百億人の人間の行動をぜんぶ把握することは不可能です。現代社会だってすべてを知ることはできません。たとえば、ギターを背中で弾く人を見たら、ジミ・ヘンドリックスの真似だと言う人が多いでしょうが、じつはジミヘンがやる前に同じことをしていた人の写真が残っていますし、何千年も前の中国でも、背中で琵琶(東アジアの弦楽器)を弾いていた人の絵が描かれています。
湯浅:人は、過去に戻れば戻るほど原始的で何もない時代だったと思いがちです。しかし、人間は1万年も生きるためや楽しむために必死だったわけだから、その間に人々はいろいろなことを試していたはずです。現代のぼくたちが想像できることの大半は、過去にも行なわれているかもしれないですし、数千年前に生きた人々は、もしかしたらぼくたちより思考が柔軟で、よりたくさんのことを思いついていたかもしれない。
湯浅:時代考証はたしかに重要です。しかし、考証できる部分は、過去のほんの一部分でしかないんです。その狭い範囲で作品をつくるのは、偏見を持って過去の人々を見ているとしかぼくには思えません。ぼくは、この作品を数百年前に生きた人々に成り代わってつくったつもりです。「なめるな、俺たちがそんな程度のことしか考えなかったと思っているのか」と。
『犬王』と『平家物語』を貫く“語る者”たちの存在 世界の無常に抗い続けるために|Real Sound|リアルサウンド 映画部
そもそも、地動説は天動説が支配的だった天文学の歴史を覆したもの。今の常識で歴史ものを「違う」と言っても、それは正解の半分であろう。
文字を使えるものには責任がある。その責任をかみしめて文字を紡ぐ。知らない誰かの背中をいつか押すかもしれない。その責任と希望。
このマンガを、このアニメもそうやってその意思を、知性をつなぐ意思を残そうとしている。この記事もまたそうだと思うと力が湧いてくる。
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メモ終わり。
湯浅監督のインタビューを改めて読んだんですけど、すごく良いことを仰っているなと思いました。確かに、私達が知り得ていることは、過去のすべてではないんですよね。そして、新たな事実がわかったら定説が180度覆ることもあるわけで。
この作品は、天動説という、かつての定説を覆すために知をつないだ人々の物語なので、その歴史を考える時にも定説以外のことにも想像力を振り分けてみるのも重要だなと思っています。
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※サムネイル画像は、Adobe Fire Flyで作成。