[PR]

トランプは原因ではなく結果にすぎないと説く『それでも、なぜトランプは支持されるか』

[PR]

会田弘継氏の『それでも、なぜトランプは支持されるか』は、2024年のアメリカ大統領選の前に発売された本だが、此度の選挙結果の「予言の書」的な評価を受けていたので、気になって読んでみることにした。

それでもなぜ、トランプは支持されるのか: アメリカ地殻変動の思想史

本書は、タイトル通り、あれだけひどい発言してもなおトランプの支持が上がり続けるのか、アメリカ社会に何が起きているのかを、現在の情勢だけでなく、アメリカ政治史、思想史の歴史の流れを踏まえた上で分析している。
 

トランプは原因はなく結果

著者は、アメリカの民主主義が壊れかけていると主張するが、壊しているのはトランプではないとしている。トランプは「原因」ではない、民主主義がこわれて「結果」として大統領になったのだということだ。

これは僕も同意する。2016年に同じようなことを書いた。題材はマイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『華氏119』のレビューだった。
『華氏119』トランプは原因ではなく、結果にすぎない – Film Goes with Net

このドキュメンタリー映画でムーアは、故郷のミシガン州フリントが、かつて自動車の生産で栄えたにもかかわらず、どんどん貧困化していった30年間を映し出す。そして、共和党も民主党もそれを止めなかった、フリントの人々はアメリカの政治そのものに絶望しているのだと訴えていた。その怒りがトランプを大統領に押し上げたという、そういう内容である。

会田氏の著者は、それを裏付けるデータを示している。

2016年、ヒラリー・クリントンが勝利した472群のGDPの割合は64%、トランプが勝利した群は36%だという。その格差はさらに広がり、4年後にバイデンが勝利した群はGDPの71%、トランプの群は29%だという。

この格差拡大は、近年に始まったことではないのだというのが本書の内容で重要な点だ。これは長年の共和党と民主党の、両党の失政に原因があるという分析をしている。その歴史と背後にある思想史を詳しく知りたい方は本書を読んでほしいが、簡単に要約すると、以下の一文となる。

1930年代から40数年間二大政党制を覆って続いたニューディール型優位の政治が対外戦争の失敗と経済運営の行き詰まりで崩壊した後は、1970年代末からやはり二大政党制を覆ってネオリベラリズム優位の政治が続いた。だがそれも、40数年を経て、対外戦争の失敗と経済運営の行き詰まりで、オバマ政権が終わったことになる。(P18)

この歴史の流れで、トランプとサンダースという左右のポピュリストが誕生した背景だという。

著者は、オバマ政権は日本ではリベラルの鏡的な評価をされているが、その実、経済政策としては失政の時代で、この8年間でかなりの中間層が崩壊したと分析している。

 
こうした現状分析の他、トランプ政権の背後で支える思想とそれがどこからでてきたのか、詳細な分析がなされていて読み応えがある。そして、キャンセル・カルチャーなどの文化衝突についても分析。アメリカの分断状況が今日のような深刻な状況になる「必然」をあぶり出している。

 

『ベルばら』を不意に思い出す

あとがきにて、本来なら一発退場の発言ばかりを繰り返すトランプの人気が上昇し続けることに、世界中のメディアが首をかしげている、陰謀論に騙されているのだと「専門家」が訳知り顔で説明して、納得した気分になっていることに警鐘をならしている。アメリカ大統領選後には、そういう論調が高まったが、会田氏は、これを選挙前にすでに指摘していたわけだ。

今後、政治を語る上で、本来の常識が通じなくなってきており、それは一種の革命状態に突入していると著者は見ているようだ。「アメリカ経済の繁栄から疎外され、ないがしろにされている人びとの怒り、豊かな人びとへの敵意がトランプという「媒体」を通じて、氾濫どころか革命的に表出しているのは明らかである」(P362)とある通り、この事態はボトムアップで人々の怒りの噴出の結果で、それはフランス革命に近いと、著者は書く。

 
フランス革命については、最近『ベルサイユのばら』を読み返していて、思ったことがある。いわゆる「首飾り事件」が王宮に対する市民の怒りのきっかけになっているのだけど、あれはマリー・アントワネットも騙された側だった。でも、市民はマリーの浪費が市民を苦しめているという「ストーリー」を信じた。それで、どんどん怒りが増幅され、ついには革命に至ったわけだけど、これ、今のアメリカの状況と似ているかもしれない。

トランプはデマ吹聴している。それはそうなのだが、一般市民が苦しんでいるのは事実。その怒りに火をつける材料がデマだったとしても、革命は起きる。歴史はそれを証明している。

それを煽っているのがトランプやイーロン・マスクという、金持ちなのが歪で、本来はこの2人も打倒される側ではないのかという思うわけだが、とにかく、今アメリカも世界もどういう方向には流れていくかわからない状況で、書いてあること全てに同意するわけではないが、この本は現状に至った分析として参考になる部分が多い。
 
 
関連作品