日曜劇場『御上先生』第一話が放送された。松坂桃李主演で、脚本が詩森ろばという『新聞記者』の組み合わせで描かれるのは、文科省から派遣され高校教師をやる男の世直しストーリーのようだ。
冒頭、いきなり国家公務員の試験会場で刺殺事件が発生。東大生が殺される。一方で、その事件に無関心を装う主人公の御上は、荷物を整理して高校への出向準備をしている。この人事は左遷だという御上。そして、その裏には友人の同僚・槙野(岡田将生)が絡んでいることが冒頭で示唆される。
高校での初日、御上は生徒たちを挑発する。自分よりも受験のノウハウに長けた人間はいないと豪語する。そして、真のエリートとは何かを問う。上級国民予備軍は真のエリートではないと告げる御上は、何を考えているのか読めない。
報道部の神崎は、そんな御上に反発。独自に取材を開始し、御上を失脚しようと企む。
副担任の是枝(吉岡里帆)は、生徒からの信頼が厚い。いきなり担任を外されたことに不満を持っている。そのことを見透かした御上は、いきなり担任を外されたのだから戦うべきだと焚きつけるようなことをいう。
神崎は、御上が天下りのあっせん疑惑に関わっていることを突き止め、校内新聞で発表。御上はその新聞を受けて、「だいたいのことは事実」と衝撃的なことを告げる。
そして神崎に対して、こんなのは闇とは言えない、ゴシップに過ぎないと告げる。そして、自分は不正をやった記憶は全く無い、文科省に残るために不正を被ることにしたのだと言う。
志だけでは何も変わらない、手を汚す必要があると御上は言う。そして、神崎に対して、かつて教師の不倫を暴いて失脚させた理由を問いかける。女性教師だけがクビになっていること、そして、その元女性教師の冴島さんは、離婚され、コンビニのバイト生活をしていることを告げる。不倫教師なんてどうでもいいと言い捨てる神崎に、そんな風に切り捨てた人の人生が続いているのだという。
そして、真のエリートとは弱者に寄り添う高潔な志を持っている人間のことを言うのだと御上は言う。
そして、冒頭の刺殺事件と神崎が暴いた不倫事件、そして御上が被った不正事件はつながっているかもしれないと告げる。
御上はバタフライ・エフェクトの例を持ち出してそれを説明しようと試みるが、実際にそれらの事件と関連性があるのかは、これから明かされていくということだろう。
本作は、教育を変えるために文科省で手を汚した主人公と、記者クラブで御用記者をやっている父親に反発して、独自に取材する記者を目指す神崎の2人を中心に、報道のあり方や教育のあり方を通して、本当の意味でエリートになることとはどういうことかを問いかける内容になるんだろう。
利己主義と利他主義ということを考える。今、世の中全体が利己主義的になっている。そして人の裏をかく言動を、ハックともてはやし、出し抜くことばかりを考えるようになってきている時代へのアンチテーゼとして、究極の世直しとして、エリートのあり方を利他主義的な観点から問い直そうということじゃなかろうか。
そして、受験対策ばかりが上達する日本の教育方針をいかに変えていくのか、という課題についても考えようという意図が感じられる。しかし、それを改革するには、文科省に入らないといけない、つまり受験戦争の勝利者じゃないと改革できないという矛盾もあることが示唆されている。
政治家を目指す人にも同じことが言えるかもしれない。ドブイタ選挙的な慣習を変えたいと思っている人はたくさんいるはず。しかし、それを変えるには選挙に勝たないといけない。まず、改革の前に勝利する必要があるので、ドブイタ選挙をしないといけないという矛盾。こういう矛盾が昨年公開のドキュメンタリー映画『◯月◯日、区長になる女。』にも描かれていたことを思い出した。
高潔な精神を持っている人物が世の中をよくしようとすると、手を汚さざるをえない社会の構造。それを承知で突き進む主人公、しかし、まだ何を考えているのか全てはわからない。ただ、なかなかに骨太な作品になりそうな予感のする第一話だった。