テレビのドキュメンタリー番組は、後から内容を調べてもなかなかたどり着けないことが多いので、気になるものはなるべくメモっておくべきだと思うようになった。
2025年2月1日のNHK新プロジェクトXは、白組の『ゴジラ-1.0』を取り上げた。「ゴジラ、アカデミー賞を喰う〜VFXに人生をかけた精鋭たち〜」と題したこの回のゲストは山崎貴監督。白組が35人のスタッフでいかにアカデミーVFX賞を受賞するに至ったのかを追いかける内容だ。
『ゴジラ-1.0』を支えた若いスタッフにスポット
伊丹十三監督の特殊効果を担当した頃の山崎さんの映像も見られる貴重な回だった。このあたりの詳細は、『白組読本』という本に詳しい。このドキュメンタリーでは、過去の話の掘り下げはそこまで多くなく、『白組読本』が概ね網羅している。ただ、この本は2016年出版なので、それ以降の白組の歩みについては、もちろん書かれていないが。
『ジュブナイル』に『ALWAYS 三丁目の夕日』とその続編のフッテージとメイキング映像が使用されていた。取り上げられた過去作はそれくらい。『三丁目の夕日』は、『白組読本』によると山崎監督は当初は乗り気じゃなかったんですよね。でも阿部さんがあの企画を山崎監督にやらせたという感じで、結果として監督としての視野が広がったのだろう。
あとは『ゴジラ-1.0』のメイキングの工程と、数名のスタッフにスポットを当てている。
スタッフで取り上げられたのは、水の表現で有名になった野島達司さん。僕も取材している。
それと若手からもう一人、佐藤昭一郎さん。彼は映画冒頭の大戸島を作成した人だ。木や植物をさらっと作れてしまうので、「植木職人」と白組の中で重宝されていたらしい。宮城県出身で、小学校の頃に震災を体験しており、母親を病で亡くし、祖父母に育てられたとのことで、祖父母も取材に応じていた。
佐藤さんは、YouTubeを見ればなんでもすぐにできるようになるらしい。寿司の握り方までマスターしているという。佐藤さんと野島さんはSNSでスカウトされた人材。野島さんにはこのあたりの顛末は僕も取材の時に聞いて記事にしている。
【独占インタビュー】アカデミー賞受賞!『ゴジラ-1.0』の水を創り出した25歳VFXアーティスト・野島達司の軌跡 – Film Goes with Net
野島さんの作った水は絶賛されたのだが、その秘密に番組では、水面と白波の境界線に注目、その間に半透明の膜を敷いたと説明していた。
そういえば、野島さんが自分のYoutubeチャンネルで公開している以下の動画も使われていた。Houdiniによる、波のシミュレーションだ。これは『ゴジラ-1.0』で海をやることになったから、自主練で作ったものらしい。完成度高い…。
もう一人スタッフで取り上げられていたのは、「ひとりハリウッド」の異名を持つ田口工亮さん。とにかくめちゃくちゃ技術が高いらしい。『ゴジラ・ザ・ライド』でかなり辣腕を振るわれたようだ。
阿部秀司さんの特集でもあった
このドキュメンタリーは主に白組のことを取り上げているわけだけど、もう一人、山崎監督を見出し、育てた人物として阿部秀司さんに大きく時間を割いている。『ジュブナイル』でデビュー作ながら4億5000万円の予算を山崎監督に与え、以来、全ての山崎作品にプロデューサーとして関わってきた阿部さんがアカデミー賞授賞式の数ヶ月前に亡くなったことが、番組全体の構成として大きな縦軸になっていた。
良い監督には良いプロデューサーが必ず必要だ。宮崎駿に鈴木敏夫がいるように、山崎貴には阿部秀司がいたのである。阿部さんは、昔から「山崎はハリウッドに行ける」と言っていたらしい。それが実現した時にはこの世を去っていたということになる。
口癖は「やってみればいいじゃん」。器の大きい大将といった風情の方だったように、この番組からはそういう印象を受ける。
山崎監督の次なるプロジェクトは『ゴジラ-1.0』の続編。ハリウッドや世界中からオファーがある中、もう一度ゴジラに挑むと決めた。その胸中は、これで自惚れて勘違いしないように、まだハリウッドには全然追いつけていないんだという、引き締めの気持ちもあるのかなと、スタジオでのやり取りを見て思った。
番組を見て、白組の歴史に興味を持った人は、上で紹介した『白組読本』を是非読んでほしい。白組発展のキーパーソンのロングインタビューが揃っていて、充実した内容だ。番組では渋谷紀世子さんなどはあまり取り上げられていないが、白組と山崎監督を語る上では絶対に外せない方だ。彼女のロングインタビューも乗っている本なので、是非読んでみてほしい。
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