NHKドラマ10『東京サラダボウル』5話は、介護施設で働くベトナム人のエピソードだ。
介護の現場で働く外国人は年々増えている。つい先日もこんなニュースがあり、タイムリーな題材と言える。
日本で働く外国人が230万人超 伸び率最高は「医療・福祉」の分野 背景に介護業界の人手不足も | TBS NEWS DIG
国籍別では5年連続でベトナムが最も多く、57万708人と、全体の4分の1を占めていて、厚生労働省は「介護業界の人手不足が背景の一つにある」と分析している。
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介護施設での盗難騒動
東新宿にある介護施設グリーンフラットで、入居者のタブレットが盗まれるという事件が発生。タブレットは技能実習生のベトナム人ティエンのロッカーから見つかった。容疑者として取り調べを受けるティエンは容疑を否認。通訳をするのは今井もみじ(武田玲奈)だ。
ティエンは骨折していて高熱に苦しんでいたが、それを必死に隠そうとしていた。鴻田麻里(奈緒)は、この事件の捜査に乗り出す。登録支援者の阿部さんは、ティエンの職場のトラブルは聞いたことがない、友達もできたと言っていたという。
タブレットは松村さんというおじいさんのもので、彼が入浴中の40分の間に盗まれた。ティエンはその入浴を別島というベテランの介護職員と一緒に担当していたので、盗めるはずがない。
だが、別島は差別意識をむき出しにティエンを問い詰めていた。そこに早川進(黒崎煌代)が恨めしそうに別島を見るのだった。
別島は進を使えない奴と罵っていた。進とティエンは別島にいじめられている同士だった。
進は、岡山出身で実家にも帰らず友人もいないという。孤独な彼にはティエンは自分よりも可愛そうなやつに見えていたそうで、それで彼を助けていたという。ティエンはそのことをわかっていながらも、彼と本当の友情を築きたくて、頑張っていた。しかし、ティエンには故郷のベトナムには友人も家族もいる。自分よりも下だと思っていた奴は、じつは自分にないものを持っていたとわかり、劣等感から、進はティエンに罪をなすりつけようとしてしまったのだ。
それでもティエンは進をかばった。彼に良くしてもらった恩を返して対等な友人になりたいから。
鴻田はアリキーノに対して「一度壊れた友情って、また戻ると思う?」と問いかける。アリキーノは「可能性はある。少なくとも、この瞬間、同じ国で生きているわけだから」と言う。
技能実習生と日本の労働力
別島は、移民が増えれば治安が悪くなると、ヨーロッパを持ち出して主張する。マイノリティが増えたら権利よこせとうるさくなるだろうと。
今井はそんな別島に対して、「外国人を働かせてやってるんじゃない、働いてもらっているんです。人口が減り続けるから、日本人だけじゃこの国はもうもたない。敵視して排除してもあなたの居場所は守れない。せめて受け止めないといけない。日本はもう変わっていくんです」と言い放つ。
技能実習生は、最長で5年間。5年たったら彼らは国に帰る。別島は「教えたら帰る、教えたら帰るの繰り返しだ」と悪態をつくが、そもそも、企業は使い捨ての労働力として実習生を見ていない。人材不足を短期的に解消することには貢献しているのかもしれないが、現場は疲弊するわけだ。別島の悪態は差別意識もあるが、本来なら定着してくれる労働力を増やしていかないといけないはずで、実習生だよりの移民労働力政策はそもそも日本の根本的な解決にはなっていない。今回のエピソードの背景には、そういう主張が隠れているように思う。
彼らは、日本という同じ国で生きている人々なのだ。「労働力」の前に対等な人間だ。労働力が足りないから来てもらいたいと思うなら、人間として対等に接するということは、当然必要だ。だが、現実にはなかなか難しい。そもそも技能実習生の実態が彼らの人権を必ずしも守れていない状態にあるわけだから。そして、1年から5年で辞めるとわかっている人の本気で仕事を教えると言っても、教える側も辛いわけだ。
アリキーノ(松田龍平)は珍しく、今井のことを褒める。今井さんみたいな人が増えれば、日本人と訪日ベトナム人の関係はもっと良くなると彼は言う。今井は警察通訳のしごとについて葛藤を抱えていたが、アリキーノの言葉は彼女の背中を押すだろう。
今回はベトナムのデザート「チェー」が登場した。甘く煮た豆類や芋類、寒天や果物など複数の具材を合わせて食べる伝統的なデザートだそうで、いろいろな素材の組み合わせがあって多彩な味が堪能できるらしい。
技能実習生と日本の労働力問題の他、孤独を抱える人の増加という社会課題も今回のエピソードの背景にあった。進とティエンは友情を取り戻せるのか。外国人との共存は、孤独に苦しむ日本人にとって、希望になれるかどうか。鴻田の最後の問いかけはその社会問題にも通じていたように思う。ティエンは漢字で「進」と書くらしい。文化も出自も違っても同じ何かを共有している。そういうものを積極的に探してつながっていくことの大切さが身にしみるエピソードだった。
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