フジテレビのドラマ『119 エマージェンシーコール』第3話は、新島紗良(見上愛)というキャラクターの内面と葛藤を丁寧に描いたエピソードだった。
※2話までのレビューはこちら
物語は、紗良が大学の同級生たちとの食事の席で、自らの職業について語るシーンから始まる。24時間体制の消防管制員という仕事は、一般的な職業とは異なり、常に人命と向き合わなければならない過酷なものだ。そんな中で、大学時代から交際している恋人のロンドン転勤を知り、自身の未来について思い悩む。「今の仕事が本当にベストかな」と恋人は問いかけるが、紗良は自らの選択に確信を持てていない様子がうかがえる。
一方で、職場ではクールに振る舞い、私生活を語らない紗良。主人公の粕原雪(清野菜名)は仕事一筋で行動力が抜群、兼下睦夫(瀬戸康史)はツンケンしていた2話まどとは異なり、笑い上戸な面や酔っ払う場面があるなど、キャラクターの幅が出てきている。それぞれのキャラクターが際立つ中、紗良は淡々と職務をこなしている。指輪が抜けないという不適切通報への対応では苛立ちを見せるが、中国語の通報では迅速な判断力を発揮する。横浜の「青龍飯店」をホテルではなくレストランであることを見抜いたのも、彼女の冷静な観察力の表れだ。
紗良は自らの感情を表に出さないが、怒鳴る通報者が男を出せという場面では、「女だからと舐められるのか」と悔しそうにする場面では、彼女が仕事の中で直面する葛藤が垣間見える。同時にこの日彼女は、生理痛を抱えながらも出勤し、冷静に通報者の声に耳を傾ける姿は、彼女のプロフェッショナリズムを象徴している。
物語の後半では、係長との会話を通じて、紗良の背景が明かされる。母は川崎の市役所勤務、父は川崎の消防局で救急隊員をしているという。彼女は幼少期から公務員の理不尽さを目の当たりにし、それを嫌っていた。しかし、コロナ禍で休まず働く父の姿を見て、「公務員がいないとこの国は終わる」と考え直し、司令課の仕事を選んだという。彼女はとても責任感が強くて真面目な性格なのだ。
堂島信一(佐藤浩市)との会話も印象的である。「勤務時間にはたくさんの話を聞かないといけないのに、他の時間まで誰かの話を聞く意味がわからない」という紗良に対し、堂島は「くだらない話も大事」と諭す。「聞くばかりではきつい。それ以外の時間にはくだらない馬鹿話でガス抜きしないとつぶれてしまう。声に出して助けてと言える人が結果タフなんだ」という言葉は、紗良にとって大きな意味を持つ。
ラストでは、スペイン語の通報を粕原が受けるが、通訳の回線が混み合っていてつながらない。そこで紗良が対応するが、病名がスペイン語でわからず、場所の特定も困難を極める。それでも「助けて」と叫ぶよう通報者に指示し、最終的には事態を収束させる。彼女の成長が感じられる瞬間である。
最終的に、紗良を含めた仲間たちが中華街に食事に行く場面が描かれる。仕事と向き合う厳しさの中にも、チームとしてのつながりが生まれていく様子が印象的だった。
この回では、紗良の職業観や価値観がより深く掘り下げられ、視聴者に彼女の内面を理解させる構成となっていた。公務員という仕事の重さ、職場での人間関係、個人の葛藤が絡み合い、現代日本で外国語の通報が増加する中で、消防司令センターの直面する課題が描かれていた。
今回のエピソードは、急増する外国人との関わりを描くという点で、『東京サラダボウル』のテーマにも通じる。『東京サラダボウル』は警察、こちらは消防と緊急性のある事案に関わる仕事で、日本語が通じない人々とどう接するのかという課題が描かれている。とても現代性の高い、今放送するべき価値のあるエピソードだったと思う。
関連作品