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「ジークアクス」に刻まれた鶴巻和哉の作家性:『フリクリ』『トップをねらえ2!』から読み解くSFと青春の融合


リアルサウンド映画部に、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の鶴巻和哉監督について書きました。

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』に潜む『フリクリ』的ダイナミズム 鶴巻和哉の作家性|Real Sound|リアルサウンド 映画部

「ジークアクス」以前の鶴巻監督の作品から、同監督がどういうタイプの作家かを分析する内容です。

Body1に庵野秀明監督とどのように違うのかを明確しておき、SFのセンスについて言及、その2つの流れが『ジークアクス』では見られるのではないかと期待できると結論付けました。

これを書くために改めて『フリクリ』や『トップをねらえ2!』など過去作を見直しましたが、やっぱり『フリクリ』はすごい作品ですね。わけがわからないのに嫌な感じにならない。

鶴巻監督のセンスが広く知れ渡るのは嬉しいです。
 
 
以下、原稿作成時のメモと構成案。
 
 
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鶴巻監督作品リスト
ナディア おまけ劇場
新・トップをねらえ!科学講座
第拾六話 死に至る病、そして、、、、新世紀エヴァンゲリオン副監督、とくに16話
彼氏彼女の事情 ACT12.0 仕合わせの在処
フリクリ
ミニモニ。THE(じゃ)ムービー お菓子な大冒険!
トップをねらえ2
天元突破グレンラガン 17話あなたは何もわかっていない
月面兎兵器ミーナ
I can Friday by day!
龍の歯医者
EVANGELION:3.0(-46h)
ジークアクス

 
参照
WEBアニメスタイル_特別企画 鶴巻和哉が語る『トップをねらえ2!』秘話 第1回 旧『トップ!』はオタク否定の作品だった?
(1623) 日本アニメ(ーター)見本市作品『I can Friday by day!』 – YouTube
 
 
Thesis
鶴巻監督の作家性や特徴は、ジークアクスにどう反映されているか

Point3つ
生々しいリアルさよりも、アニメらしい誇張やウソのカタルシスを好む人
SFマニアとしての鶴巻監督
何を描きたい人か、、、抒情的な青春の1ページのショットにセンスがある

それらはジークアクスにどう活きているか
 
 

Intro

鶴巻和哉監督作品のジークアクスBeginningが先行上映として異例の大ヒット

この作品の全貌はいまだわからないのだが、鶴巻監督作品としての見た時、どんなことが言えるのか。

鶴巻監督の過去作も紐解き、鶴巻監督の志向やセンスがどのように発揮されているのか振り返ってみたい。
 
 
 
 

Body1 鶴巻監督はどういうタイプの監督

庵野秀明との違い

鶴巻監督の監督としての代表作は、フリクリ、トップをねらえ2、龍の歯医者と言ったものが挙げられる。単独監督作は多くないが、いずれも非常にハイレベルな作品。

フリクリはエヴァ後のGAINAXの発の企画として構想された。彼氏彼女の事情が先にできることになったが、

鶴巻監督は、自身と庵野秀明とのスタンスの違いについてこう語る

フリクリズム プラス プラス 株式会社ムービック 2010年9月30日 「フリクリ decade」木俣冬、P140

鶴巻 フィクションという点では、庵野さんの世代とは壁があって……。

榎戸 そうなんだ?

鶴巻 庵野さんは、アニメが嘘であることが許せないっていうか、そこにコンプレックスを抱いてる。僕にはわからない感覚なんだけど。庵野さんや貞本さんは、アニメにどれだけリアルを投入できるかに力を注ぐんです。

<中略>

でも、僕はそうじゃなくていいと思っている。今石君の描くような荒唐無稽なアクションも大好きだし、それを抑制することで失われてしまうパワーが惜しい、と感じてしまう。

庵野秀明のリアリズムは、アニメを作る時には生々しさを求めていく。(自分の本から引用する)

鶴巻監督の代表的な監督作品を見ても、その傾向の違いははっきりと表れている

フリクリは、破天荒さが売り。

フリクリックノイズ 鶴巻和哉・貞本義行、太田出版、2010年8月14日、P29

僕自身は『うる星やつら』も『さすがの猿飛』も大好きだったわけで、リアルじゃなくても全然いいんじゃないか、と思ってた。嘘っぱちな荒唐無稽アクションと、リアルな空気は共存して行けると思ってたし、共存することによって、どちらかがマイナスになるってことは、ないんじゃないかな、って。

トップをねらえ2も同様にアニメチックな飛躍やウソのカタルシスに溢れている(具体的に)

一方で求められることに応じて色々なことができる器用さがある。小黒さんはかつて鶴巻さんを秀才タイプを称している

アニメージュ2001年4月号、「この人に話を聞きたい 第三十回鶴巻和哉」P104

――あの時から、僕にとっての鶴巻さんの印象は「秀才」なんですよ。

<中略)

鶴巻 自分で言うのも変だけど、分かるような気がしますよ。子供の頃から、そういうところがありましたね。

――鶴巻さんは天才じゃない、と言うと失礼なんだけど。天才って、もっとエキセントリックですよね。天才って凄い事もやるけど、もの凄い欠点もある。秀才って頭がいい上で、あまり欠点がないですよね。思慮深く物事を進める。

自分の好きなものを入れるには入れるが、それに耽溺して押し付けることはしない、バランス感覚が色々なところで働くことができるバランサーとして鶴巻監督は優秀ということだろう。

新世紀エヴァンゲリオンでは、第拾六話「死に至る病、そして」を単独で演出・絵コンテを務めている。エヴァが精神の内面を描写していくようになり、作風ががらりと変化していくきっかけとなるエピソードでもあり、今日のエヴァのイメージを形作ったとも言えるエピソードで、フリクリやトップ2とは異なるセンスを発揮している。
 
 

Body2SFマニアとしての鶴巻さん

「死に至る病、そして」は内面世界の描写だけでなく、様々な要素が詰まっている。シンクロ率でトップをとったシンジが調子に乗って影の使徒に取り込まれる。

思春期の落とし穴が描かれる。

同時に、虚数空間の海というSF的な面白さに溢れた内容でもある。

新世紀エヴァンゲリオンがSF大賞を受賞したことを鶴巻監督はとても嬉しかったそうだ。彼はかなりのSFマニアであもある。

鶴巻監督はインタビューなどでSF好きであることを公言している。SF的な意匠の使いどころも面白い。

フリクリにもSF的要素はふんだんにあるが、それ以上にドタバタした日常や町内会的な雰囲気のコミカルな描写や年上のお姉さんと少年の純情が前面に出ているが、本来はもっとSF的なギミックを多数用意していたらしい

SFマガジン 2001年5月号 「新SFインターセクション 第5回ゲスト 鶴巻和哉」大森望、早川書房、P110

泣く泣く切ったところはありますけどね。大仕掛けのSFを読んで育った人間だから、ほんとは思いきり濃いSFがやりたかった。

このインタビューで個人の問題と大きなSFネタをシンクロさせたい欲求があるという質問に。「そうですね」と答えている。

土壇場でコアなSFを使うとどうにもうまくいかないことが判明し、思い切ってSFネタを全部捨てて、決まってたキャラクターだけそのまま残し、そっくり「ご町内モノ」にはめこんでようやくできたのが「フリクリ」というわけなんです。登場人物の関係性が不明に見えるのは、あの世界に宇宙SFネタみたいなネタがプラスされてのものだからというわけで‥‥。(広告批評、2002年5月号、マドラ出版、P84

フリクリやトップをねらえ2には確かにそういう要素がある。

***エキゾチックマニューバやノノがバスターマシンであったりするということ、トップレスの能力は年を取るとなくなってしまうという設定にはそれが表れていると言える。***

鶴巻監督は好きなSF作家として、神林長平を挙げている。中でも『七胴落とし』を挙げている。

『フリクリ』はもろに『七胴落とし』なんですよ、ぼくの中では。

『七胴落とし』は、子どもだけが感応力というテレパシーのような能力を持っている世界を描いていて、それは大人になると失われてしまうという物語。

この大人になると失われてしまう能力というのは、トップをねらえ2の設定にも共通点がある。

ジークアクスにおいては、モビルスーツに乗り込む主人公のまちゅが「キラキラ」と呼ぶ精神現象に巻き込まれて、赤いガンダムに乗るシュウジと感応するシーンがある。ガンダムにはニュータイプという概念があるが、それに連なるものだと思われるが、鶴巻監督のSF知識からも来ているのではないか。

龍の歯医者では、ミステリ・SF作家の舞城王太郎と組んでいる。どちらかというとファンタジー作品だが、

I can Friday by dayは日常にロボットが紛れ込んでいるSF作品。短編ながら、アニメらしいギミックとSFへの愛情が描かれていて鶴巻監督らしい作品だ。

ふつうに生活している話のほうが好きなんですよ。特殊な状況作って右往左往する人々を描くのがパニックものの醍醐味なんだけど、僕は破滅後というか、「どんっ」とあったあとの話が好きなので。(SFマガジン、P208)
 
 

Body3何を描きたい人か、、、抒情的な青春の1ページのショットにセンスがある

アニメーション的な荒唐無稽のカタルシスや濃いSF的なものへの傾倒だけでなく、鶴巻監督は、抒情的な描写にセンスがある

フリクリ第一話の川辺のマミ美とナオ太

あるいはトップをねらえ2の3話、木星に雪を降らせるエピソードなどは、抒情的な切なさや青春の1ページとしてのこうした描写にセンスを感じさせる監督でもある。

鶴巻作品の主人公は、トップ2のノノも、ここではないどこかへと飛び出していきたいという欲求を持つ。宇宙に飛び出していきたいという欲求はジークアクスのまちゅにもありそうだ。彼女がなぜ、ここまでグランバトルのような危険なものに飛び込んでいくのか、その動機はまだ直接描かれていないが、そうした外への自由を希求する主人公像は、鶴巻監督の得意とするところではないか。

龍の歯医者の主人公

ガンダムというパッケージは、濃いSFネタ(ニュータイプや宇宙)、抒情的な情感ある青春もやれる題材。そこに竹氏のキャラクターデザインで、アニメらしい誇張表現なども充分に織り込んだ表現をミックスさせていけば、鶴巻監督らしい作品に仕上がるのではないか。その萌芽は先行上映で確かに感じられた。
 
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メモ終わり。

ちょうど、『フリクリ』のYoutube無料配信があるので、気になる方はチェックしてみてください。
「ジークアクス」鶴巻和哉監督の伝説の傑作「フリクリ」がYoutubeで無料公開 – Film Goes with Net
 
 
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