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AfD躍進とドイツ映画界の岐路。映画資金改革とベルリン国際映画祭の行方


ドイツで2月23日、総選挙が実施され、最大野党の保守陣営「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」が首位、極右と呼ばれる「ドイツのための選択肢(AfD)」が第2党に躍進した。ショルツ首相が率いる与党の中道左派ドイツ社会民主党(SPD)は大敗となり、政権交代となる見通しだ。

このことはドイツの映画産業にどう影響するか、Deadlineが興味深い分析記事を出していたのでかいつまんで紹介する。
 

政治的激変と映画改革への渇望の中、岐路に立つドイツ産業

ドイツが2月23日の総選挙を迎える中、映画業界は重大な岐路に立たされている。欧州最大の経済大国であるドイツは3年連続で景気後退に直面し、インフレやエネルギー価格の高騰が制作部門に深刻な影響を及ぼしている。伝統的なテレビ局の支援が弱まる中、2024年のドイツの興行収入は前年比6.5%減と、欧州主要国の中でも最も厳しい状況にある。

映画業界は政府と協力し、ドイツ映画法(FFG)の改正、税制優遇制度、ストリーマーの投資義務を含む資金改革を進めてきた。しかし、2023年11月に社会民主党(SPD)、自由民主党(FDP)、緑の党による連立政権が崩壊し、これらの改革は事実上の停止状態に陥った。12月には新たな映画資金調達法が可決されたものの、税制優遇措置やストリーマー投資義務の法案は未批准のままとなっている。

極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が選挙で22%の票を獲得すると予測される中、反移民・反環境政策が業界に与える影響も懸念されている。ドイツ黒人映画製作者協会(Schwarze Filmschaffende)のベニータ・サラ・ベイリーは、ドイツ映画法(FFG)の改良版から「多様性とインクルージョンに関する成文化された基準が削除されたことは、業界にとって大きな打撃だった」と語る。FFGの初期の草案には、具体的な男女平等と差別撤廃の基準が含まれていたそうだ。

また、多くの関係者は、選挙後の新政権が改革をどのように進めるのか不透明であることに不安を抱いている。特にインディーズ制作者は、資金調達が難航すれば、より有利な税制優遇措置のあるオーストリアやチェコ共和国への移転を余儀なくされる可能性がある。

ドイツ連邦映画基金(DFFF)とドイツ映画基金(GMPF)の新法案が12月に可決され、支援の自動化や助成金の増額が行われたものの、リベートの上限が制限されているため、国際的な競争力の向上には不十分との見方もある。レオニンの助成金・公共政策担当EVP、リサ・ギールは「ドイツには税制優遇措置がなく、他国に比べて競争力が低い」と指摘する。

また、ドイツではフランスのようなストリーミング・プロバイダーの投資義務が確立されていないため、NetflixやAmazon Primeの人気作品が生まれながらも、国内制作の強化にはつながっていない。Seven Elephantsのファビアン・ガスミアは、「公的資金はドイツまたはヨーロッパの企業が権利を保持する作品にのみ与えられるべきだ」と主張する。

ドイツ映画業界の未来は、新政権が資金改革を迅速に進めるかどうかにかかっている。スタジオ・バーベルスベルクのような国内の主要制作拠点が国際的な大作を誘致できるかどうかも、不透明な政策次第である。投資義務や税制優遇措置の導入が遅れれば、業界の縮小と制作会社の海外移転が加速する恐れがある。

カムは、「インセンティブがなければ、ドイツはもはや魅力的な制作拠点とは言えない」と警鐘を鳴らす。ドイツ映画業界が国際競争に生き残るためには、政治の安定と迅速な改革が不可欠である、としている。
 
またユーロニュースは、今年のベルリン国際映画祭で、当初映画祭側はAfDの党員を招待していたが、民主主義敵価値観と矛盾すると批判が起こり撤回していることを報じている。映画祭としてはAfDの価値観とは相容れないとしたわけだが、その理念は民主主義を尊重するというもの。

しかしながら、今回AfDが第二党に躍進したことは、ある意味で民意を得たということになる。今後のベルリン国際映画祭は政治とどのように距離を取るのか、そして映画産業も政治のバックアップを必要としている状況と言える。難しい舵取りを迫られることになると思われる。

ドイツ零年(字幕版)

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エドモンド・メシュケ, エルンスト
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