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マイアミビーチ市長、パレスチナ題材のオスカー映画「ノー・アザー・ランド」に「プロパガンダ」批判、映画館の賃貸契約を解除する決議を提案


米フロリダ州マイアミビーチのスティーブン・マイナー市長が、市所有の施設で上映されるドキュメンタリー映画『No Other Land』を問題視し、同施設を借りている非営利のアートハウス映画館「O Cinema」の賃貸契約を解除する決議を提案した。

『No Other Land』は、イスラエルによるパレスチナ自治区マサーフェル・ヤッタの住宅破壊を記録した作品で、今年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した。しかし、マイナー市長はニュースレターで本作について「ユダヤ人への虚偽かつ一方的なプロパガンダ攻撃であり、市および住民の価値観と一致しない」と批判し、O Cinemaの契約解除を求める決議を提出した。

O Cinemaの共同創設者であるカリーム・タブシュ氏は「この脅威は極めて深刻であり、真剣に受け止めている」とコメントした上で、「文化機関として、対話を促し、思考を喚起する作品を提供する責任を果たすことが重要であり、政府の干渉なしにそれを行うことが我々の使命である」と述べた。

この動きに対し、アメリカ自由人権協会(ACLU)フロリダ支部は、市長の行動を批判し、O Cinemaの法的支援を行うことを表明した。また、同作の制作陣も反発している。本作は、イスラエル人2人とパレスチナ人2人の監督によって制作され、世界24カ国の配給会社が公開権を獲得しているものの、米国内では従来の劇場公開やストリーミング配信の契約が成立していない状況だ。

ACLUフロリダ支部の法務ディレクター、ダニエル・ティリー氏は「政府が自らと異なる意見を持つ者を罰するために権力を濫用することが許されるかどうかが問われている」と指摘し、市議会には「憲法違反の決議を進めるか、冷静な判断を下し、芸術の自由を尊重するか」の選択が求められると述べた。

イスラエル人ジャーナリストであり、本作の共同監督の一人であるユヴァル・アブラハム氏は、市長の発言を強く批判した。「パレスチナ人とイスラエル人が占領とアパルトヘイトに反対し、正義と平等のために共に闘うことを“反ユダヤ主義”とするなら、その言葉は無意味になる」とし、「マサーフェル・ヤッタの現実を目の当たりにすれば、占領を正当化することは不可能だ。だからこそ、市長はこの映画を恐れているのだ」と指摘した。

マイナー市長は、O CinemaのCEOであるビビアン・マーテル氏が当初は市の要請に応じて上映中止を決定したものの、その後、方針を変更したと主張している。しかし、タブシュ氏によると、マーテル氏の当初の決定は市長の発言が「O Cinemaの存続に対する脅し」と受け取られたために生じたものだったという。その後、劇場スタッフや地元の芸術関係者と協議を行い、「適切な対応ではなかった」と判断し、上映を続行することを決めた。

「私たちのコミュニティは圧倒的にこの映画を観たいと望んでいる」とタブシュ氏は述べ、「友好的な解決策が見つかることを願っている」と語った。

マーテル氏も同様に「『No Other Land』の上映は政治的立場の表明ではなく、すべての声が聞かれるべきだという基本的な信念の再確認だ」と述べ、芸術の自由を守る姿勢を強調した。

この決議が可決されれば、市はO Cinemaとの賃貸契約を解除し、市の価値観により適合する新たなテナントを探すことが可能となる。また、同施設への補助金の支払いも停止される見込みだ。

マイナー市長は昨年11月に無所属で市長に当選したが、今回の決議についてのコメントを求められても応じなかった。市議会は来週の水曜日に本件を審議する予定だが、可決されるかは不透明である。

市議のタニア・カツォフ・バット氏は、この決議に反対する考えを示し、「この映画を観たが、非常に重い内容だった。どう受け止めるべきか悩んだが、こうした議論に対処する方法は、映画館を罰することではない」と語った。

一方、市議のデイビッド・スアレス氏は「判断を下すのは時期尚早」と述べつつ、「O Cinemaが市の補助金を乱用することは許されない」と指摘。市議のクリステン・ローゼン・ゴンザレス氏も「上映は地域社会の一部にとって深刻な懸念を引き起こしている」としながらも、「拙速な対応は、法的な対立を生み、税金の無駄遣いにつながる」と警告した。

O Cinemaのウェブサイトによると、『No Other Land』の来週の上映は全て完売している。

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公式ソ=つ:Florida Mayor Threatens Cinema Over Israeli-Palestinian Film – The New York Times