[PR]

「ノー・アザー・ランド」上映中止の危機──マイアミビーチ市長の圧力に映画界が反発


米フロリダ州マイアミビーチの映画館「O Cinema」が、アカデミー賞受賞作であるパレスチナ・イスラエルのドキュメンタリー映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』を上映したことを理由に、市のスティーブン・マイナー市長から賃貸契約の打ち切りを求められている。この動きに対し、Art House Convergence(アートハウス・コンバージェンス)とInternational Documentary Association(国際ドキュメンタリー協会、IDA)が声明を発表し、「深刻な懸念を抱いている」と強く非難したとindiewire が報じている。。

声明では、「独立系映画館の番組編成は、憲法修正第1条(言論の自由)を侵害する政治的介入を受けるべきではない」と指摘。さらに、「アカデミー賞をはじめ、2024年IDAドキュメンタリー賞で4つの賞を受賞するなど、国際的に高く評価されている『ノー・アザー・ランド』が、このような検閲的な対応を受けていることは二重の意味で問題だ」と述べた。

また、「映画館や映画祭の資金提供を、上映作品の内容を理由に打ち切ることは、芸術、アーティスト、上映者全体の言論の自由に反する行為であり、こうした圧力が実行されれば、苦しむのは映画製作者だけでなく観客も同様だ」と警鐘を鳴らしている。

映画を「反ユダヤ的プロパガンダ」とする市長の主張

地元紙Miami New Timesの報道によれば、マイナー市長はニュースレターで『No Other Land』を「ユダヤ人に対する一方的で虚偽のプロパガンダ攻撃であり、市や住民の価値観に合致しない」と批判。しかし、本作はパレスチナ人とイスラエル系ユダヤ人の映画製作者、バーゼル・アドラ氏やユヴァル・アブラハム氏らによる共同制作であり、特定の一方的な視点に偏ったものではない。

こうした市長の対応に対し、Pen Americaのフロリダ州ディレクターであるケイティ・ブランケンシップ氏も、「映画を検閲しようとするこの行為は、民主主義国家の政府が取るべき行動を逸脱しており、明らかに違憲だ」と厳しく批判。「政治家は、映画の内容に同意しないからといって、映画館が上映する作品を決める権利を持たない」と述べた。

さらに、Artists at Risk Connection(危機にあるアーティスト支援組織)のジュリー・トレボー事務局長も、「芸術表現を封じ込めようとするこの試みは、民主主義を脅かし、文化機関を危機に陥れ、観客の選択の自由を奪う危険な行為だ」と警告。「これは単なる一作品の問題ではなく、社会が芸術と向き合い、批評し、より良い未来を思い描く権利を守る戦いでもある」と述べた。

O Cinemaの決断と今後の影響

『No Other Land』は現在、米国内で正式な配給が決まっておらず、Cinetic Mediaを通じて個別の上映が進められている。O Cinemaでは当初、上映を取りやめる決定をしていたが、後に方針を変更し、3月19日と20日に追加上映を行うことを発表。しかし、マイナー市長の圧力が続けば、今後の上映が危ぶまれる状況だ。

IDAらの声明では、「アートハウス映画館は、自由な表現の場として極めて重要な役割を担っており、文化的な議論の場としての価値がある」と強調。「政府の所有する文化施設の多くが公的な場として機能しているように、O Cinemaの存在もまた、その価値を示している」とした上で、「政治的圧力によって映画館の活動が制限されることは、アメリカが建国以来守ってきた言論の自由の理念を根本から揺るがす」と警告した。

また、声明では、「特定の映画を排除することは、観客が重要な作品に触れる機会を奪うだけでなく、対立する意見への敵意を助長し、暴力を容認する風潮を生み出しかねない」と指摘。「映画館が、社会にとって必要な思索的で挑戦的な作品を提供し続けることができるよう、憲法修正第1条の権利を守ることが不可欠だ」と訴えた。

O Cinemaの閉鎖が現実のものとなれば、それは単なる一映画館の問題にとどまらず、アメリカの言論の自由そのものに対する重大な挑戦となる。