トランプ政権が進める多様性・公平性・包括性(DEI)関連プログラムの撤廃が、映画業界に深刻な影響を及ぼしている。法廷闘争が続く中、独立系映画制作者たちはすでにその影響を肌で感じていることをindiewireが報じている。
「間違いなく我々は影響を受けている。非常に落胆している」と語るのは、映画制作者でありConfluential FilmsのCEO、Black Love, Inc.の創設者兼会長であるトミー・オリバー氏だ。同氏は『Fancy Dance』や『Going to Mars: The Nikki Giovanni Project』、さらには『The First Purge』の監督ジェラルド・マクマリーによる新作ホラー『Goons』などを手掛けてきた。
「投資家たちは怯えている」とオリバー氏は指摘する。「政治的な混乱に加え、映画業界自体がすでに変革の時期にあるため、資金調達がますます難しくなっている」。
商業的な作品へのシフトと多様な物語の排除
独立系プロデューサーのアヴリル・スピークス氏(『Jinn』『Dotty & Soul』)も、業界の空気が大きく変わったと話す。「他のプロデューサーたちと話をしていると、みんな同じ疑問を抱えている。誰が私たちの物語をサポートしてくれるのか?」
スピークス氏によると、現在の業界では「より商業的」「中西部向け」「沿岸部以外」というような作品が求められているという。「その時点で、私たちが置かれている状況は明白だ」。
「2020年から2021年にかけて、ジョージ・フロイド氏の事件後には、業界全体が黒人映画制作者を支援する姿勢を見せていた。しかし、現在ではその熱意は冷め、無関心が目に見えている」とスピークス氏は嘆く。「以前は多くの企業が関心を示し、会話の機会も多かったが、今では目をそらされることすらある」。
映画業界におけるDEIの後退
DEIの後退は、映画業界の人事にも表れている。2023年には、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのDEI部門上級副社長カレン・ホーン氏が退任し、彼女が推進していたパイプラインプログラムも消滅した。同年6月には、ディズニーの上級副社長兼最高多様性責任者(CDO)だったラトンドラ・ニュートン氏が退社。パラマウントのインクルージョン部門トップであるマーヴァ・スモールズ氏もCEO直属のポジションに異動した。Amazon Studiosをはじめ、多くの企業がDEI部門を縮小または再編し、従業員の解雇が相次いでいる。
「業界の変動を何度も見てきた」とホーン氏は語る。「しかし、DEIの取り組みはビジネスにも利益をもたらすものだ。だからこそ、この動きが再び中立化することを願っている」。
20年間の努力が水泡に帰す懸念
Reform MediaのCEOであり、Issa RaeのColorCreative共同創設者であるデニース・デイビス氏は、映画業界が過去20年間にわたって築いてきたDEIの成果が失われることを懸念する。
「これまで人々がキャリアをかけて築いてきた部門が、完全に解体されている」とデイビス氏は指摘。「今、私たちの物語を支えてくれる業界の内部のチャンピオンは誰なのか?」
「DEIの撤廃は単なるシンボル的な変化ではない。それは、この業界における門戸をさらに狭めるということだ」とデイビス氏は強調する。「これらのプログラムは、多様な映画制作者にとって業界に足を踏み入れるための数少ない手段だった」。
依然として残る可能性と未来への希望
一方で、独立系映画を支援する団体も存在する。Level Forwardの共同創設者エイドリアン・ベッカー氏は、「この状況は、アーティスト、職人、プロデューサー、投資家、そして支援者すべてに影響を与えている」と述べつつも、「だからこそ、新たなチャンスを見出すことが重要だ」と語る。「政治的な圧力があるからといって、映画制作者は臆してはいけない」。
Cinema Tropicalの創設者であり、ラテンアメリカ映画をアメリカで紹介する活動を行っているカルロス・グティエレス氏も、状況を打開するための新たな戦略を模索している。「ラテン系映画制作者は長年、認知や商業的成功を得るのが難しい状況にあった。しかし、今こそ映画制作者と観客を中心に据えたエコシステムを作り直す好機だ」。
グティエレス氏は、1960〜70年代の「第三世界映画運動(Third Cinema)」に触れ、「映画配給の民主化が必要だ。今こそ、抜本的な変革の時だ」と強調する。
映画業界は変革期にあるが、その中でも新たな挑戦と可能性が生まれつつある。制作者たちは政治的な圧力に屈するのではなく、新たな資金調達の方法を模索し、独自のネットワークを築く必要があるとする。