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拘束された「ノー・アザー・ランド」共同監督が語る「これは私たちの映画に対する復讐」


アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』の共同監督であるパレスチナ人映画監督ハムダーン・バラール氏が、拘束から解放後イギリス・ガーディアンの取材に応じている。バラール氏によると「『オスカー』という言葉」も聞こえたそうで、映画に対する復讐ではないかと語っている。

記事によると、3月18日(月)午後6時頃、ヘブロン南部マサーフェル・ヤッタ地域のスシヤ村でラマダンの断食を終えた直後、入植者が村に侵入したとの連絡を受けたという。

「私は人権団体『Haqel: in Defense of Human Rights』で活動し、写真家でもあるため、現場の記録をしようとしました。しかし、数枚の写真を撮った時点で状況が悪化していることに気づきました。入植者は数十人おり、ますます攻撃的になっていました」とバラール氏は振り返る。

目撃者によると、入植者の一部は警棒やナイフを持ち、M16ライフルを手にした者もいた。さらに、イスラエル兵が彼らを村へと案内していたという。CJNV(Center for Jewish Nonviolence)の活動家ジョシュ・キメルマン氏は、マスクをした入植者がパレスチナ人住民やユダヤ人活動家を棍棒で攻撃し、車の窓を破壊し、タイヤを切り裂く様子を証言した。動画にも、入植者が活動家2人を殴打する場面が記録されている。

バラール氏は、自宅の家族を守るために急いで戻り、「家の鍵をかけ、子どもたちを中に入れておくように」と妻に伝えた。しかし、その直後、イスラエル兵2人に護衛された入植者がバラール氏の家に接近。兵士は周囲の支援を封じるため空に向けて発砲した。

「兵士がライフルを私に向け、入植者が背後から殴打し始めました。地面に投げ倒され、頭を強打されました。その後、兵士の一人がライフルの台尻で私の頭を殴り、再び空に発砲しました。ヘブライ語は分かりませんが、『次の銃弾はお前に向ける』と言っているのが理解できました。その瞬間、自分は死ぬのだと思いました」とバラル氏は語る。

負傷し、手錠をかけられ目隠しされたバラール氏は、他の2人のパレスチナ人とともに軍用車両に押し込まれ、キリヤット・アルバの警察署へと連行された。冷房の効いた部屋の床で一夜を過ごし、最小限の治療しか受けられなかったという。

拘束中もイスラエル兵による暴行が続き、「彼らは私を殴りながら笑っていた。『オスカー』という言葉も聞こえた」とバラール氏は証言する。「これは私たちの映画に対する復讐だったのだ」。

弁護士のレア・ツェメル氏によると、拘束された3人は最低限の治療しか受けられず、彼女が接見できるまで数時間を要した。イスラエル国防軍(IDF)はバラル氏の告発を否定し、「拘束中の暴行は根拠がない」との声明を発表。しかし、バラル氏が自宅前で殴打されたという主張には言及しなかった。

バラール氏は1989年、スシヤ村に生まれ、映画監督、写真家、人権活動家として活動。『No Other Land』(2024)は、2019年から2023年にかけてのマサフェル・ヤッタにおける入植者暴力とパレスチナ人コミュニティの排除を記録した作品である。今年のベルリン国際映画祭で受賞し、アカデミー賞でも最優秀ドキュメンタリー賞を獲得。しかし、イスラエル国内外で反発を招き、米フロリダ州マイアミビーチ市長が同作を上映した劇場の契約解除を提案するなどの動きもあった。

「オスカーを受賞して3週間しか経っていないが、暴力は激化している」とバラール氏は指摘する。「私だけでなく、活動家や映画のクルー、そして住民全体が標的にされているのだ」。

同作の共同監督ユヴァル・アブラハーム氏は、アメリカ映画芸術科学アカデミー(AMPAS)がバラール氏の事件に対する公式な声明を出さなかったと批判。X(旧Twitter)で、「ドキュメンタリー部門のメンバーの一部は声明を求めたが、最終的に却下された。バラール氏が映画のせいで標的にされたことは明白だが、彼は単にパレスチナ人であるという理由でも暴力を受けた。それがアカデミーの沈黙の口実になったようだ」と投稿した。

イスラエル軍は1980年代にマサーフェル・ヤッタを実弾演習地に指定し、住民の退去を命じた。現在も約1000人が居住を続けているが、イスラエル軍による家屋や水タンク、オリーブ畑の破壊が繰り返されており、完全な追放が懸念されている。ガザ戦争の影響で、ヨルダン川西岸では軍事作戦によるパレスチナ人の死者が急増し、入植者による襲撃も相次いでいる。

CJNVによれば、スシヤ村では今年に入ってから少なくとも43件の入植者による暴力事件が発生している。「彼らはここで終わるつもりはない。入植者はこれからも攻撃を続けるだろう」とバラール氏は警鐘を鳴らす。「今回のようなことが、次は誰か他の人に起こるかもしれない」。