日本テレビ系で放送開始された新ドラマ『恋は闇』は、連続殺人事件を追うテレビディレクターと週刊誌記者の出会いを軸に、恋愛とミステリー、そして報道倫理を交錯させた異色のサスペンスだ。志尊淳の妖艶な魅力が作品を引き立てている。
第1話は、事件の輪郭とともに、報道のあり方そのものを問う内容として鮮烈な印象を残した。
被害者報道のあり方を問う内容
物語の主人公は、情報番組「モーニングフラッシュ」の若手ディレクター・筒井万琴(岸井ゆきの)。本当は報道部志望でありながら、視聴率至上主義に流されがちな情報番組の現場に配属されている彼女は、いわば「報道の矜持」と「視聴者の欲望」のはざまで揺れる存在だ。視聴者の欲望というよりは、テレビ局のビジネス的な側面というべきか。ともかく、情報番組という曖昧な存在がクローズアップされる内容だった。
彼女が出会うのは、週刊誌記者・設楽浩暉(志尊淳)。美貌と話術を武器に情報を引き出す設楽は、事件の被害者遺族の感情すら巧みに操り、世間の関心を引く記事を量産してきた。だが、彼のやり方は正義なのか、それとも暴力なのか。視聴者は万琴と共にその問いに立ち尽くすことになる。
第1話で描かれたのは、「ホルスの目殺人事件」と名付けられた連続殺人と、それを報じるメディアの姿である。被害者の過去、家庭、生活、職業──事件と無関係かもしれない私生活の断片が次々とメディアに晒されていく様は、現実世界の「報道被害」を彷彿とさせる。万琴はその葛藤に苛まれながらも、被害者に寄り添う「正しい報道」を模索し続ける。一方の設楽は、「報道に裁く力はないが、世間の関心をつなぎとめ、忘れさせない役割がある」と語り、過激な手法を正当化する。その言葉には冷徹さが滲むが、現代のメディア環境における一理をも突いている。
本作が特筆すべきは、こうした報道倫理の議論に、心理戦と恋愛の要素を絡める巧妙さである。万琴は過去に親友の葵がストーカーに刺された時、被害者の友人としてメディアに囲まれるという辛い体験をしており、報道という行為が人に与える影響を身をもって知っている。だからこそ、ただ事実を伝えるだけでなく、どう伝えるべきかに心を砕く。しかし、彼女が取材を進める中で接近していく設楽は、人の心を動かす術を持っている男だ。彼が、被害者女性の友人の心を開かせるために話す「過去の誘拐体験」は真っ赤な嘘だったことが判明する瞬間、視聴者は「どこまでが演技で、どこまでが本音なのか」という根源的な不安に直面する。それこそがミステリーの醍醐味なわけだが、物語序盤でこのシーンがあることで、設楽の言うことはどこまで信頼できるのか、視聴者にわからなくさせてから、物語が本格的に動き出すような構成になっている。
設楽の本性は?
実際、設楽は優秀な記者であることは間違いない。彼は常に万琴の先を越している。そして、文章も上手い。「ホルスの目殺人事件」という名称は設楽の記事によって生まれた。そして、被害者女性がキャバクラに務めていた過去に関して、それを苦労していた女性というストーリーで記事を書くことで世間は一層、被害者女性に同情するようになった。万琴にはその発想はできなかったのだ。
報道とは何か、真実とは何か、人の心を動かすとはどういうことか──本作は、物語の冒頭から一貫してその問題意識を持ち続けている。テレビ報道の現場、特に情報番組の立ち位置に対する批判的な視線も鋭い。事件をエンタメ化し、被害者の「物語」を仕立てて消費するあり方に対し、万琴が示す戸惑いと抵抗は、視聴者自身の内省をも促す。
設楽浩暉というキャラクターの存在が実に魅力的である。志尊淳が演じる彼は、妖艶で危うい美しさをまといながらも、時折見せる誠実さや脆さが、単なる悪役では終わらせない深みを与えている。彼が万琴に手を伸ばすその瞬間、優しさと狂気が紙一重で共存しているように見えるのは、まさにこの作品の持つ闇の象徴といえる。
結末では、設楽が犯人と同じスニーカーを履いていたことが明かされる。彼は加害者なのか、それとも報道という名の闇に取り込まれた犠牲者なのか──この先の展開に否応なく期待が高まる。
『恋は闇』は、単なるミステリーではない。報道の正義と暴力の境界線、真実と虚構の交差点に立つ視聴者に、“見る”という行為の責任すら問う、極めて現代的な作品である。
テレビ報道のあり方を問うとい点で、TBSの『キャスター』とも共通するものがありそうだ。見比べてみると面白いかもしれない。
登場人物
筒井万琴(岸井ゆきの)
設楽浩暉(志尊 淳)
臼井啓二(おかやまはじめ)
進藤荒太(竹森千人)
蔵前沙樹(西田尚美)
野田昇太郎(田中哲司)
木下晴道(小林虎之介)
三橋拓実(名村辰)
尾高多江子(山本未來)
小峰正聖(白洲 迅)
内海向葵(森田望智)
????(萩原聖人)
大和田夏代(猫背 椿)
松岡慧(浜野謙太)
夏八木唯月(望月 歩)
児嶋一哉(児嶋一哉)