テレビ朝日の木曜ドラマ『PJ ~航空救難団~』は、航空自衛隊の航空救難団を題材にしたドラマだ。この組織は、人命救助最後の砦と呼ばれていると劇中に説明されているが、実際にどんな実績を持った部隊なのだろうか。
■ 組織概要――創設は1961年、“That others may live” の精神
航空救難団(Air Rescue Wing=ARW)は航空総隊隷下で航空救難・空中輸送を専門とする航空自衛隊唯一の団級部隊だ。司令部を埼玉県・入間基地に置き、10個救難隊と4個ヘリコプター空輸隊を全国に展開する。標語は「他を生かすために(That others may live)」で、人命救助を最優先に活動する。救難機はUH-60J、捜索機はU-125A、輸送はCH-47Jを運用する。
■ 任務と装備――“航空救難・空輸・教育・災害派遣”の四本柱
航空救難団の任務は、言うまでもなく救難だ。災害派遣や自衛隊の航空機事故時にも捜索にあたる。だが、その他にも空中輸送の任務も行うようだ。そして、教育訓練も行う。今回のドラマではこの教育訓練の現場がクローズアップされている。
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救難業務:自衛隊航空機事故時の搭乗員捜索・救助。
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空中輸送:レーダーサイト等への人員・物資輸送。
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教育訓練:パイロット・救難員(PJ)・機上要員の養成を行う救難教育隊が小牧基地で約1年間の過酷な課程を実施。
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災害派遣:都道府県知事や関係機関の要請により急患空輸・被災者搬送・空中消火を行う。
■ 具体的実績――「最後の砦」が積み上げた救命の数字
実際の任務実績を見てみよう。近年の大きな災害にはほぼ派遣されているようで、以下がその数字だ(出典:任務実績|航空救難団|防衛省 [JASDF] 航空自衛隊)
年月・災害 | 主な活動 | 救助・搬送数等 | 出動部隊例 |
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2011年3月 東日本大震災 | 被災地捜索・患者空輸・空中消火 | 救助者3,443名/物資20.8万kg | 各救難隊・ヘリ空隊 |
2016年4月 熊本地震 | 孤立住民救助・患者搬送 | 累計16名救助・約510名患者空輸 | 新田原救難隊ほか |
2020年7月 豪雨 | 行方不明者の空中捜索 | 不明者捜索を実施 | 芦屋救難隊ほか |
2024年1月 能登半島地震 | 妊婦・高齢者等の緊急搬送 | 要救助者48名を空輸 | 小松救難隊・新潟救難隊 |
公式サイトには、隊員目線の迫真の救助シーンの写真が数多く掲載されている。どの現場もかなり過酷な状況であることがよくわかる。
累計では災害派遣2,707件・救助者7,466名、航空救難254件・救助人員153名とのことだ(令和7年3月末時点)。
■ 「PJ」になるには――狭き門の選抜試験と1年の教育課程
ドラマで描かれるPJの訓練課程は過酷なもので、その合格率は例年6割前後だと第一話で語られていた。では、その選抜試験はどのようなものだろうか。
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受験資格
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28歳以下の空曹または空士長
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各特技職5レベル以上・勤務成績優良
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選抜試験科目
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水泳検定:クロール500 mを12分59秒以内、横潜水25 mほか
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体力検定:懸垂10回、腕立て40回、300 m走64.9秒以内、65 kg担架搬送200 mなど
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航空身体検査・適性検査・面接(視力0.3〈矯正1.0〉以上)
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教育課程
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小牧基地救難教育隊で約12か月。空挺降下、ラペリング、潜水、救急救命、山岳技能などを習得。
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すべて修了した者のみが救難員(Pararescue Jumper=PJ)として救難隊へ配属される。
選抜は年1回・定員4~5名程度で倍率5倍超。まさに「超難関」である。
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公式の募集サイトには、訓練の模様が掲載されている。ドラマと同じく雪山や水中、降下訓練などもやはりあるようだ。
■ 現役パラレスキュージャンパー(PJ)はどんな人たち?
防衛省オフィシャルマガジン『MAMOR』のウェブ版に実際のPJの方々が紹介されている。
入隊2年目の瀧嶋3曹は「一番険しい場面で人を助ける救難隊の魅力に引かれて入隊した」と語る。雪山・潜水訓練に励みつつ「救難員のリーダーとなって任務に貢献したい」と目標を掲げ、先輩から学んだ知識と技術の研鑽を続けている。キャリア25年の佐藤1曹は「ヘリで上から見る景色と地上は全く違う。慎重すぎるほど注意して二次災害を防ぐ」と強調。「殉職した先輩たちの思いを背負い、身尽きるまで職務を全うしたい」と覚悟を示している(「身尽きるまで、職務を全うしたい」百里救難隊・救難員の覚悟 – MAMOR-WEB)。
ドラマでも、命掛けの仕事であることは強調されていたが、やはり実際に任務中に殉職した人もいるようだ。
また、朝雲新聞社のサイトでは、自己鍛錬として登山に挑む広瀬3曹について紹介している。標高4,809mのモンブラン単独登頂を成功させたそうだ。「ここで退けば一生後悔すると感じたから諦めなかった」と語り、極限環境での精神力を鍛え続けているとのこと(ニュース詳細│朝雲新聞社)。
いずれも強い覚悟と使命感を持って任務にあたっている様子が見て取れる。本当にこれは大変な仕事のようだ。
■撮影には、航空自衛隊が強力、防衛省は脚本監修も
本作は、実際の航空自衛隊の基地内で撮影しており、自衛隊と協力関係のもと制作されている。
ロケの拠点は小牧基地で全編の8割をここで撮影しているらしい。本物の救難ヘリも使用されている。UH-60J救難ヘリ、U-125A救難捜索機、CH-47J輸送ヘリなどが登場。エキストラには現役隊員が出演しているという豪華な体制だ。実際の降下シーンや搬送などのシーンには、本物隊員が演じているシーンも含まれているのだろう。
俳優たちもそれに負けないために4か月前から肉体つくりに励んだうえで撮影に臨んでいると報じられている。日本のテレビドラマとしてはかなり珍しい本物志向の作品と言える。