マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)第36作目『サンダーボルツ*(Thunderbolts*)』が公開中だ。本作の特徴のひとつが、その異色かつ感情的な音楽である。監督ジェイク・シュライアーの指名を受けて音楽制作を担当したのは、実験音楽バンドSon Lux(ソン・ラックス)だ。メンバーはライアン・ロット、イアン・チャン、ラフィーク・バティアの3人。映画音楽の常識にとらわれないアプローチが話題となっている。
チームの「アウトサイダー感」が音楽の核に
監督は撮影開始前からSon Luxを起用し、週に1回のペースで対話を重ねたという。ロットによれば、「僕たちには外部者としてのエネルギーがあるからこそ起用された」と語る。実際、脚本以外の情報がない段階で音楽づくりが始まり、想像力に満ちたセッションが続いた。
本作の鍵となるのは、終盤で初めてフルで流れる「サンダーボルツ・テーマ」である。このテーマは金管による8音のモチーフを基調とし、後にストリングスが加わって盛り上がりを見せる。ロットは「ベースライン、カウンターメロディ、主旋律の三層構造が完成したとき、監督が『これぞサンダーボルツ*の音だ』と確信した」と明かす。
音楽は物語とキャラクターの感情に寄り添う
テーマの初登場は劇中中盤、フローレンス・ピュー演じるイェレナ・ベロワが幼少期のサッカーチーム「サンダーボルツ」の写真を見るシーンだ。ここで音楽は切なく展開され、彼女の記憶と失われた希望を象徴する。「彼女は満たされない気持ちを抱えている。後悔と失望に縛られている」とロットは解釈する。
また、バティアは「テーマが全編を通じて断片的に登場することで、観客にとっては“どこかで聞いた気がする”ような感覚が芽生える。だからこそ最後に完全版を聞いたときに“帰ってきた”ような感覚が生まれる」と説明する。
キャラクターの“個”ではなく“集団”を描く音作り
音楽制作の初期段階で「各キャラクターにテーマ曲を持たせるべきか」という議論もなされたが、結論は「チーム全体としてのエネルギーが重要」というものだった。Son Luxは、バラバラだったキャラクターたちが徐々にひとつのチームとしてまとまっていく過程を、音楽面でも丁寧に描いている。
ただし、唯一例外となるのが本作に登場する新たな強敵「センチュリー(Sentry)」である。圧倒的な力を持つが内面は傷ついた存在であるこのキャラクターには、恐怖と哀しみの両面を持つテーマが与えられた。その旋律は時に破壊的に、時に孤独なピアノの旋律として響く。
映画の核心を支える“音の物語”
『サンダーボルツ*』の音楽は、ただ場面を彩るだけのものではない。キャラクターの内面や関係性、そしてチームとしての融合を音によって表現する挑戦的な試みである。Son Luxが持ち込んだ「外部者の視点」が、MCUに新たな感覚を吹き込んだことは間違いない。
公開中の『サンダーボルツ*』を劇場で体験する際には、キャラクターたちの背後に流れる繊細な旋律にも耳を傾けてほしい。
公式サイト:‘Thunderbolts*’ Composers Son Lux on Creating Superhero Theme