『コンビニ人間』で芥川賞を受賞し、世界40以上の言語に翻訳された作家・村田沙耶香の最新作品集『信仰』が、2025年5月8日より文春文庫として発売された。
国際的評価を受ける作家・村田沙耶香
村田沙耶香(むらた さやか)は1979年生まれの小説家であり、現代文学において鋭い社会批評と独創的な世界観で高く評価されている。2003年、『授乳』で群像新人文学賞優秀作に選出されデビュー。2016年には『コンビニ人間』で第155回芥川賞を受賞し、一躍注目を集めた。
同作は累計発行部数180万部を突破し、44の国と地域で翻訳されるなど、国際的ベストセラーとしても確固たる地位を築いている。英訳版『Convenience Store Woman』は米誌『The New Yorker』により「2018年のベストブック」にも選ばれた。
2024年にはディストピア長編『世界99』を発表、翌2025年4月にはその英語版『Vanishing World』(原作『消滅世界』)も刊行されるなど、国内外での評価が続いている。
『信仰』は“信じる”という行為に潜む危うさと切実さを描いた11篇
そんな村田が2023年に単行本として発表した短編集『信仰』が、文庫版として新たに再構成され登場した。文庫化に際しては、短篇「無害ないきもの」「残雪」と、ガザ在住の友人作家に寄せたエッセイ「いかり」、さらに新たな寄稿「書かなかった日記」を加えた計11篇を収録。
表題作「信仰」では、「好きな言葉は“原価いくら?”」と語る超現実主義者の主人公が旧友にカルト商法へと誘われる。一方、「生存」では、65歳時点での生存率が〈C〉と判定された女性が〈A〉の恋人と別れることを決意する――信じる対象が変わるたび、人はどう生き方を変えていくのかを問う構成となっている。
「小説と随筆が戯れ合う不思議な一冊」と語る著者の想い
村田は本作について、「小説と随筆を混ぜた、少しいつもと違った佇まいの本」と位置づけ、「存在しない世界の主人公の言葉と、随筆に存在する言葉が戯れ合うように混ざりながら存在するのは、私にとってとても奇妙な感覚」と語っている。文庫化によってさらに新しい言葉が加わったことにより、「時間も、言葉も、さらに奇妙に膨張したような感覚で、出来上がった美しい装丁のご本を眺めている」とコメントを寄せた。
装丁は草のようなイメージで“掴みきれない感覚”を表現
文庫版の装丁は、単行本版に続きデザイナーの鈴木千佳子氏が手がけた。「草のようでいて、風がざーっと吹いているようでもあり、波打つ海のようでもある。掴み取りきれない“いろんな見え方がしそうな感じ”を表現した」と意図を明かしている。
村田沙耶香の作風とテーマ
村田の作品世界は一貫して「社会の常識」への疑問と、人間の本質に迫る視点に貫かれている。『コンビニ人間』では「普通」であることの意味を問い、『地球星人』(2018年)では適応できない少女の苦悩を描き、『生命式』(2019年)では生死や家族のあり方をテーマに短編で探求した。
近作『世界99』(2024年)では、複数の人格を持つ女性が異なる世界を行き来する設定を通じて、人間の多面性と社会の変容を描き出している。
書誌情報
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書名:『信仰』
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著者:村田沙耶香
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判型:文庫判
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発売日:2025年5月8日
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定価:715円(税込)
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ISBN:978-4-16-792361-7
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出版社:株式会社文藝春秋