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ビョークの最新コンサート映画『Cornucopia』公開 “楽観的ゴス”が描く没入型サイエンスフィクション的世界観とは


アイスランド出身の音楽家ビョークが、自身のコンサート映画『Björk: Cornucopia(コルヌコピア)』を通じて、観客を幻想的かつ感覚的なサイエンスフィクションの世界へと誘う。本作は、5年にわたるツアーを記録した作品であり、2025年5月より世界各国の劇場で公開が始まった。

“死から私たちを救うのは愛”──ビョークが語る本作の核心メッセージ

『Cornucopia』のラストで提示されるメッセージは、「Love will save us from death(死から私たちを救うのは愛)」という一文である。ビョークはこれを「Joy Divisionの『Love Will Tear Us Apart』に対する奇妙な返答」だと語り、「私は“楽観的ゴス”を目指している」と強調する。さらに、「アルビノ・ゴスが私の目指すところ」と冗談めかして付け加えるなど、彼女独自の世界観が随所に見られる。

『Utopia』『Fossora』『Vulnicura』を融合──“感情の地層”を描くセットリスト

本映画の基盤は、2017年にリリースされたアルバム『Utopia』である。ビョークは「『Utopia』は理想郷への欲望だけでなく、それが叶わなかったときの失望をも表現している」と語り、希望と現実の狭間を舞台に投影する。ツアーでは『Vulnicura』の痛みや『Fossora』の菌類的ビジョンも織り交ぜ、夢の形成とその実践、そして喪失を一つの物語として構築している。

ハープや円形フルートも登場──“デジタル演劇”としての『Cornucopia』

『Cornucopia』の舞台は、19世紀の劇場をベースに構築され、ビョークが「デジタル演劇」と呼ぶ空間が広がる。磁力ハープや円形フルートといった特注楽器、電動ヴァルヴァ、空間をねじる光の帯、天使の羽根を持つ奏者たちが登場し、ドルビーアトモスによる立体音響とともに没入型の音楽体験を実現している。総勢27枚のスクリーンを用いた視覚演出は、現代の“魔法ランタン”とも言える装置だ。

SF的理想郷を描くビジョン──“女性とフルートが新たなユートピアを築く”

ステージ上では、アジア・南米・スカンジナビア神話を融合させた「女性の神性」がテーマとなり、暴力を逃れた女性たちが子どもとフルートを携え、新たな島で平和な生活を始めるという物語が描かれる。男性が再び現れて混乱をもたらす展開もあり、ビョークはこの設定について「平和主義的な男性もいるが、本作では“攻撃的な男性性”を扱っている」と説明。母親としての視点も反映され、銃乱射事件が続く米国社会への強い問題意識も滲む。

サウンドと映像の完璧な融合──“視覚と聴覚の共感覚”を徹底追求

『Cornucopia』では、ビョーク自身がサウンド&ビジュアルディレクターを務め、1曲につき10秒単位で映像と感情を同期させたという。楽曲「Arisen My Senses」では、アニメーションのストローとハープMIDIを完全に連動させ、27枚のスクリーンをタイミングごとに開閉させた。また、「Body Memory」では真逆のアプローチを採り、50人編成の合唱団や7メートルのパイプオルガンなど、アナログの壮大さを追求している。

“Cornucopia=豊穣の角”に込めた意味とは

タイトル『Cornucopia』は、ラテン語で“豊穣の角”を意味する。ビョークはこの作品を『Utopia』と『Fossora』の両方を包含する「器」として名付けたと説明。COVID-19によるツアー中断を経て、きのこをテーマにした『Fossora』が誕生し、結果として『Cornucopia』は空中の理想郷と菌根のような地中世界を繋ぐ、立体的な作品へと進化した。

ビョークが描く未来のレシピ

本作は、個人的な喪失と社会的危機のなかで、理想に向かって進むための「処方箋」とも言える。ビョークは「『Fossora』は“夢の実践”であり、創造的で官能的な植物たちが咲く世界」だと語り、来たる2026年の皆既日食には、母をテーマにした曲のビジュアルを展示する計画も明かした。

“愛が死から私たちを救う”という言葉の通り、悲しみの先にある歓喜を、彼女は音と映像の錬金術で我々に示している。

ソース:Björk on Her Concert Film, ‘Cornucopia,’ and Its Immersive Sci-Fi Universe