TBS日曜劇場『キャスター』第5話は、報道と警察の関係性という根幹に切り込んだエピソードであった。スクープを得るためには信頼関係が不可欠。しかし、その信頼の裏には、権力による操作や沈黙の圧力が潜んでいる。本話では、報道という仕事に真摯に向き合う人間たちの葛藤と、彼らを取り巻く腐敗の構図が浮き彫りになった。
スクープを警察からもらうために、警察のスクープはできない?
物語は、ある女性がSNSで暴力警官を告発するツイートを発したことから動き出す。警察内部での暴行行為を明かすこの告発は、赤坂署の竹野署長がテレビ番組で「真実を語る」とされるに至り、一躍注目を集める。しかし、竹野は直後に一転して暴行はなかったと会見を開き、告発は打ち消される。この不可解な変化の裏には、警察組織内部の圧力が働いていた。
進藤壮一(阿部寛)は、この構図に対してメスを入れる。警視庁記者クラブの横並び報道を批判し、「真実」を追う報道の姿勢を失っているのではと批判する。一方、社会部担当で警察と関わることが多い安藤恵梨香(菊池亜希子)は、今回の竹野署長のスクープを、自分を飛ばして計画されたことに反発し、こういうスクープや告発は警察からの信頼を一発で吹き飛ばされるから迷惑だと言う。信頼関係が壊れれば今後スクープは得られなくなるからだ。だが進藤は「だからこそスクープなんだ」と真っ向から応じる。信頼とは何か。報道とは誰のためにあるのか。両者の対立は、報道マンとしての信念のあり方を問いかける。
過去の因縁も交錯する。かつて梶原(玉置玲央)は竹野に「ぺーぺー」と罵られながらも、警察上層部の癒着を暴き、結果として両者の間に奇妙な信頼関係が芽生えた。その竹野が出世の見返りに内部告発を抑え込んだという疑惑が浮上する。梶原の報道姿勢も問われるなか、彼自身が警察への取材をめぐり、放送局からの契約解除の危機にさらされる。彼の立場は、正義と雇用の間で揺れ動く多くの報道人の姿を象徴している。
内部告発の難しさ
さらに報道部内には内通者の存在も発覚。情報がリークされ、組織内の誰かが警察と結託している可能性が浮上する。この事態を進藤は崎久保華(永野芽郁)と共に突き止めようとするが、局内の空気は一様ではない。報道の誠実さを信じようとする者と、組織の論理に屈しようとする者との間で、職場内にも緊張が走る。
進藤は一日警察署長として署内に潜入、竹野が残したログイン情報を使って、警察官の暴行映像を入手する。これをもとに、内部の女性職員に接触。だが彼女は「竹野でさえ戦えなかったのに、自分に何ができるのか」と語り、声を上げることをためらう。これは、組織の理不尽に直面した個人の痛切な声である。
局内の反対を押し切り、暴行事件のスクープを報じることが決まるが、証言者は直前に翻意する。警察に脅された可能性が高く、進藤は局内に内通者がいると断定。これをあぶり出すため、意図的に情報を流す“罠”を仕掛ける。
情報はすぐさま参事官に渡り、安藤の関与が疑われるも、真の内通者は駒井部長だったことが発覚。警察とマスコミの癒着が、組織内の上層部にも及んでいる現実が突きつけられる。安藤は駒井に「報道の人間として誠実に戦う」と叫び、信頼と正義の狭間で自らの良心を守ろうとする。
終盤、参事官は“とりあえず”巡査部長の暴行を認め、尻尾切りを図る。しかし進藤はすでに参事官の暴力団との癒着の証拠も確保していた。それこそが竹野が追い求めていた真実であり、進藤が報道マンとして譲らなかった一線でもある。
生放送のラストで進藤は、こう問いかける。「日常の中で、理不尽を感じたことがあるだろう。組織の都合に良心を封じていいのか」。これは視聴者への真正面からのメッセージであり、報道の本質をつく言葉である。
そして物語は、進藤の私的な過去とも交錯し始める。崎久保の家族を崩壊させた会社が、参事官とつながる暴力団によるものだったことも判明する。進藤の追う報道の先には、通り魔に刺された妻との別れ、その事件とも何らかのつながりがあるようだ。進藤の今後の行動は、私怨と正義が入り混じるさらなる深淵が待ち受けているのかもしれない。
報道は、信頼と正義の狭間で揺れ続ける。その葛藤を描いた第5話は、視聴者自身の中にある“沈黙する良心”を問い直すような、強烈な問いを突きつけた。組織に迎合せず、なお声を上げ続けることができるか。その問いこそ、本作の真のテーマなのかもしれない。
登場人物
進藤 壮一(阿部寛)
崎久保 華(永野芽郁)
本橋 悠介(道枝駿佑)
小池 奈美(月城かなと)
尾野 順也(木村達成)
チェ・ジェソン(キム・ムジュン)
戸山 紗矢(佐々木舞香)
鍋田 雅子(ヒコロヒー)
松原 哲(山口馬木也)
崎久保 由美(黒沢あすか)
横尾 すみれ(堀越麗禾)
進藤 壮一 (幼少期)(馬場律樹)
羽生 剛(北大路欣也) (特別出演)
尾崎 正尚(谷田 歩)
羽生 真一(内村 遥)
滝本 真司(加藤晴彦)
南 亮平(加治将樹)
梶原 広大(玉置玲央)
安藤 恵梨香(菊池亜希子)
市之瀬 咲子(宮澤エマ)
海馬 浩司(岡部たかし)
山井 和之(音尾琢真)
国定 義雄(高橋英樹)