株式会社文藝春秋は2025年6月20日、国際刑事裁判所(ICC)所長である赤根智子氏の初の著書『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』(文春新書)を刊行した。日本人初のICC所長として、ウクライナやガザで繰り広げられる戦争犯罪に真摯に向き合う赤根氏が、大国の思惑と衝突し存続の危機に瀕するICCの「いま」を克明に綴っている。

プーチンとネタニヤフへの逮捕状発布、その先にICCが目指すもの
世界各地で戦火が絶えない中、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるパレスチナ・ガザへの非人道的な攻撃など、数々の紛争に国際刑事裁判所(ICC)は向き合ってきた。そして、ロシアのプーチン大統領、イスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を請求したことで、その存在感は国際社会で一層高まっている。2024年3月からは、そのICCの所長を赤根智子氏が務めている。
日本人として初めてICCのトップに就任した赤根氏は、就任後まもなくプーチン氏から逆に国際指名手配を受ける事態となった。さらに、ICCに敵対的な姿勢を示すトランプ前米大統領は、大統領令の発令により同僚の裁判官への制裁を決定するなど、国際的な圧力に晒されている。世界規模の戦争犯罪に誠実に、そして果敢に向き合ってきたICCは、まさに存続の危機に直面しているのだ。
国際刑事裁判所のルーツと、問われる「法の支配」
第二次世界大戦後のニュルンベルク裁判、東京裁判にルーツを持つ国際刑事裁判所は、平和を希求する国際秩序の礎であり続けてきた。本書では、このICCがいかなる機関であるのかを詳述している。
また、自国第一主義に突き進むアメリカに頼ることが難しくなった現在、国際社会はウクライナやガザをはじめ、世界各地で進行中の「力による支配」に対し、どのように向き合うべきなのかという問いを投げかける。「世界で起きていることは、やがて日本でも起きること」と警鐘を鳴らす赤根氏は、いまほど法の支配による安全保障が必要な時代はないと訴え、その最前線で闘うICCトップの真実の記録が本書に収められている。
赤根智子氏が語るICCの「いま」と日本の役割
本書「プロローグ」より、赤根智子氏は以下のコメントを寄せている。
「本書では、私自身の経験を紹介しながら、ICCは『どのような組織で、何をしているのか』『どのような問題に直面しているのか』『未来に向けて、どのような可能性を持っているのか』を、読者のみなさんにできるだけわかりやすく、場合によっては誤解を恐れずに、お伝えしていくつもりです。(中略)この本をきっかけに、日本国内でICCを、そしてICCが象徴する普遍的な価値を守ろうとする機運がより高まることを、心から願っています。」
また、脱稿後の2025年6月5日には4人のICC裁判官が新たな制裁対象となったことにも触れ、「しかし私達は今までどおりICCの裁判官として中立かつ公正な裁判業務を続けてまいります」と、その強い決意を表明している。
著者プロフィールと書誌情報
赤根智子(あかね・ともこ)
東京大学法学部を卒業後、1982年に検事任官。横浜、津、名古屋、仙台、札幌各地検検事、東京高検検事、函館地検検事正などを経て、国際連合アジア極東犯罪防止研修所所長、法務総合研究所所長、最高検察庁検事などを歴任。名古屋・中京大学法科大学院教授、外務省参与・国際司法協力担当大使なども務めた。2018年より国際刑事裁判所(ICC)判事を務め、2024年3月からはICC所長に就任している。
書誌情報
- 書名:『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』
- 著者:赤根智子
- 判型:新書判
- 定価:1,045円(税込)
- 発売日:2025年6月20日
- ISBN:978-4-16-661496-7
- 書誌URL:https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166614967