2025年6月27日より劇場公開されるジョセフ・コシンスキー監督の最新作「F1/エフワン」は、ブラッド・ピットとダムソン・イドリスを主演に迎え、公開に先立ちニューヨークでプレミア上映された。批評家からは概ね好意的な評価が寄せられており、Rotten Tomatoesでは58件のレビュー中84%が、Metacriticでは24件のレビュー中69%がそれぞれポジティブな評価を下しているという。
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物語の概要:引退したF1ドライバーと若き才能の絆
本作は、かつてF1ドライバーとして活躍したが引退していたソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)が、若きドライバー、ジョシュア・ピアース(ダムソン・イドリス)の指導とチームメイトとして復帰するという、ハイオクタンなF1レーシングドラマである。Apple Original FilmsとWarner Bros.が製作を手掛けており、ケリー・コンドン、ハビエル・バルデム、トビアス・メンジーズ、キム・ボドニアらが共演している。
批評家の評価:称賛されるレースシーンと指摘されるテンプレート性
本作の最大の魅力は、その圧倒的なレース描写にあると多くの批評家が評価している。『The Hollywood Reporter』のロヴィア・ギャルキーは、コシンスキー監督が架空のチームを実際のF1チームの中に埋め込むことで、レースウィークエンドのシーンに力を入れている点を指摘。「ハンス・ジマーによる高揚感あふれるスコアが緊張感を高めている」と述べ、ロードシミュレーターなど様々な技術の探求も高く評価している。
一方で、物語のテンプレート性を指摘する声も少なくない。『Screenrant』のメイ・アブドゥルバキは「F1/エフワンは、驚くほど魅力的なストーリーを持った2時間半のCMである」と述べ、作品全体に散りばめられたブランドロゴにも言及しつつも、映画自体は観客を引きつける力があると評価した。『Collider』のロス・ボナイムは「F1が提供する興奮と見事なレース映像にもかかわらず、そのストーリーはこれまで何度も聞いたことがあるものだ」と述べ、クリシェが多用されている点を認めつつも、「これらのカーブをクリアするF1の質と印象的な性質が、本作を史上最高のレーシング映画の一つにしている」と締めくくった。
『The Guardian』のピーター・ブラッドショーは、ブラッド・ピット演じるソニー・ヘイズが「60代の陽気な顔をヘルメットに押し込めてハンドルを握る、とんでもなくチープだが激しく豪華に撮影されたF1メロドラマ」と表現。引退したベテランが若手ドライバーを指導するという古典的なプロットが、ピクサーの「カーズ」と共通すると述べている。
協賛によるリアリティと緊張感の欠如
BBCのニコラス・バーバーは、本作がF1の主催者と参加者の全面的な協力を得て製作されているため、「本質的には、派手な企業プロモーション映画であり、気が散るほどのプロダクトプレイスメントによって、登場人物よりもブランド名を覚えてしまう可能性が高い」と厳しい意見を述べている。また、「批判的な視点や懐疑的な要素が一切なく、キャラクターが適切に敵役になったり、ソニーについて失礼なことを言ったりすることも許されないため、緊張感に欠ける」とも指摘した。
新規ファンと既存ファンへのアプローチ
『IndieWire』の主任映画批評家デビッド・エーリッヒは、「F1」が「超現代的なスペクタクルを古典的なアンダードッグストーリーのシャシーに効果的に溶接することで、常に楽しませてくれる」と評価しつつも、新規ファンと既存ファンの両方を満足させようとすることで、シンプルだが魅力的な要素を見失うことがあると分析した。『Empire』のソフィー・ブッチャーは、F1ファンにとっては「F1のスポーツ描写の正確さに興奮するだろう」としつつ、「レースがやや繰り返しに感じられたり、詳細な情報が理解できない可能性もある」と述べた。しかし、「コシンスキーらが成し遂げたことの大きさは否定できない」と、その技術的偉業を称賛している。
期待される迫力の映像体験
『USA Today』のブライアン・トゥルーイットは、「この映画は多くの決まり文句を躊躇なく採用しているが、F1の命と魂は白熱のアクションシークエンスにある」と述べ、コシンスキー監督が観客に「時速200マイルで走るロケットに乗っているかのような危険と、敵を追い抜く高揚感を感じさせたい」という意図を高く評価している。『Associated Press』の映画批評家ジェイク・コイルは、「F1は予測可能なゴールラインに向かって進み、過去のスポーツドラマから様々な要素を借りている」と述べつつも、映画が「ついに静かになる、至福の瞬間」があり、その時に「F1が別の道を進む可能性」を垣間見ることができると語っている。
ブラッド・ピットの存在感
『Rolling Stone』のデビッド・フィアーは、ブラッド・ピットの演技が本作を成功に導いていると強調。「ピットが彼の存在感、身体性、魅力、熟練したスクリーン上のペルソナ、規律とDGAF(Don’t Give A Fuck)な無頓着さの独特なミックスを注入する方法こそが、この作品を成功させている」と絶賛し、ピットの存在が「車の存在をも凌駕している」とまで述べている。
これらのレビューから、「F1/エフワン」は、F1というスポーツの迫力ある映像体験を最大限に引き出しつつも、ストーリーラインにおいては古典的な要素を踏襲していることが分かる。F1ファンにとっては細部へのこだわりが、一般の観客にとってはブラッド・ピットのカリスマ性とスリリングなレースシーンが、それぞれ魅力となるだろう。