月イチ、映画ライターのヒナタカさんによる映画レビューをお届けします。今回は小池健監督の『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』を取り上げていただきました。
投票で決まった『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』のレビューをやっていきましょう!
月イチのレビュー記事で扱う映画はどれがいいですか?のアンケートです!今回はすべて、6月27日公開の日本のアニメ映画から…!よろしくお願いします。
— ヒナタカ@映画 (@HinatakaJeF) June 25, 2025
結論を申し上げれば、単体の劇場用アニメとしてそれほど悪くはないけど、「シリーズの最終作」としては不満が大いにある内容だと思えました。
個人的お気に入り度:5/10
映画.com:2.7/5 Filmarks:3.5/5 (2025年7月1日時点)
目次
「シリーズ最終作」かつ「ブリッジ」という特殊な立ち位置
1996年の『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』以来、約30年ぶりの『ルパン三世』シリーズの「2D劇場版アニメ」という触れ込みがされていますが、これはけっこう誤解を招く表現じゃないかと思います。
なぜなら、小池健が監督を務める「LUPIN THE IIIRD」シリーズの中編作品『次元大介の墓標』(2013年)『血煙の石川五ェ門』(2015年)『峰不二子の嘘』(2019年)の3作品が劇場公開されていたから。さらには1週間前に4作目『銭形と2人のルパン』も各プラットフォームで配信スタートしており、今回の『不死身の血族』はシリーズ5作目にして(おそらくは)最終作なのです。
しかも、このシリーズには「ルパン一味が次々と刺客に襲撃を受ける背後には黒幕がいる」という大きな物語の流れがあり、今回はその一旦の決着が描かれ、さらには1978年の劇場版第1作『ルパン三世 ルパンVS複製人間』への「ブリッジ」にもなっているいう、かなり特殊な立ち位置となっているのです。『次元大介の墓標』のラストでも匂わされていたその要素が、12年の時を経て終結したことに、感慨深さを覚えるファンは多いでしょう。
一見さんでもわかりやすい親切設計だけど…
しかしながら、一見さん完全お断りというほどではなく、後述するメインの内容はわかりやすくエンタメ性がありますし、初めに今までの経緯が示される親切設計なのですが……その冒頭の前4作のダイジェスト映像でそれぞれの結末部分がネタバレされるという大きな問題も。そのため、事前に前4作の視聴を強くおすすめしておきます。
余談ですが、それ以前の2012年にはアニメシリーズの『LUPIN the Third -峰不二子という女-』もあり、こちらでは小池健がキャラクターデザイン・作画監督を手がけていて雰囲気や画が似ています。しかし、脚本が『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『アリスとテレスのまぼろし工場』の岡田麿里だけあって、ドロドロとした心理描写が際立っている内容に。これはこれで賛否ある作品ですが、併せて見てみてもいいでしょう。
「ルパン一味 in 髑髏島」な内容だった
本作のメインの内容は存外わかりやすく、ルパン一味がヤバい島に招かれて謎を探りながらも脱出を目指すというもの。強く連想したのは映画『キングコング』シリーズ、特に2017年の『キングコング:髑髏島の巨神』でした。
ただ生き延びることも困難な島の環境や、数々の不条理な出来事に翻弄される様、PG12指定ならではのバイオレンス描写、キレの良いアクションの見せ場、謎が謎を呼ぶ島のスケール感、そして意外な真相が用意されていることもあって、この過程はかなり楽しめました。
ハードボイルドな雰囲気がありながらも、荒唐無稽なSF設定をマシマシにした内容は賛否が分かれるところですが、それは『複製人間』にも通じている要素ですし、なるほどブリッジとしてもリスペクトとしても納得はできました。
『ジークアクス』と共通する賛否を呼ぶ要素と、違うところも
しかしながら『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』は、個人的には不満の多い内容でした。そのひとつは作品の立ち位置が「関連作品ありき」になりすぎていることです。
そして、「新しい物語」が立ち上がっていたと思いきや、「他作品との繋がり」が大きく関わってくるというのは、直近では激しい賛否両論を呼んだ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』に通じているところです。
『不死身の血族』も『ジークアクス』も「公式の同人誌」のようなトリビュート的な内容なのですが、一種のパラレルワールド的な解釈をも要求されるため、ファンへのサービスであると共に、元の作品を大切に思うファンだからこその拒絶反応も呼びやすいという……そのアプローチそのものに賛否を呼ぶのは致し方がないでしょう。
また、今回の『不死身の血族』には回想シーンと説明が多すぎてクドく感じてしまうという別の大きな問題が。『ジークアクス』は全12話で尺が足りず詰め込みすぎという批判意見も多い一方で、「余地」を考察する楽しみもあったと思います。対して『不死身の血族』は解釈の余地はそれほどなく、結果として「窮屈」な印象も持ってしまいます。
「小池ルパン」の終わりとしてこれでいいの?
小池監督による「LUPIN THE IIIRD」シリーズは、いずれもPG12指定されるほどのバイオレンス、さらには石井克人による原案のキャラクターデザインなどが、モンキー・パンチによる原作漫画に近く、「アダルトな魅力を持つルパン三世」として支持されていたと思います。
ただ、そのぶんルパン三世という作品に求められる「軽妙洒脱」な雰囲気はやや後退した印象もありました。それを上回る「ハードボイルド」な魅力を打ち出せれば良かった、特に1作目『次元大介の墓標』はまさにそこを突き詰めていたのですが、最終作であるこの『不死身の血族』では『複製人間』のブリッジを意識しすぎるがあまり、やはり荒唐無稽なSFアドベンチャーの側面が強くなっています。
しかも今回はルパンが苦しみながら戦い、一味とは別行動をする場面も多いのです。そのため、結果的に「小池ルパン」としての魅力を気持ち良く打ち出せてはいない、最終作としては消化不良な印象が否めない作品になってしまったと思うのです。
新しい作品としての魅力と、関連作品との連動要素が、見る人によってはケンカしているように思える……それもまた『ジークアクス』に似た問題点だとは思うのです。そうした文句も含めて、ファンが盛り上がれる「祭り」としては楽しいんですけどね。
さて、最後に結末部分だけ、『複製人間』への「繋がり」についての不満も触れておきましょう。
※以下、『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』結末部分のネタバレと、『複製人間』の冒頭部も触れています。
銭形警部が同一人物に思えない問題も
今回の物語上では目に見える形でルパン三世が復活することなく、その墓参りの場面でも終わるというのもなかなかスカッとはしないところではあります。(謎の少女の「サリファ」の正体も謎のままだし……)(あとルパンは木の上に次元へ「利子つきのタバコ」を置いていたけど、そんな不確かな返し方するなよ!)
そして、銭形警部がルパン三世の死亡を改めて聞かされ、部下から疑問に思われながらも「逮捕」に向かうところで終わるのです。
で、『複製人間』の冒頭では、「鑑識の結果からも処刑された男がルパン三世であることが明らか」でもありながらも、銭形がルパンが埋葬されているドラキュラ城へ急行し、その遺体に自らの手でとどめを刺そうとする……というシーンに繋がる、とういうわけですが、続けてみればこそ、この場面が超コミカルな描き方であるため、『不死身の血族』のラストでシリアスな決意を固めて動き出した銭形と同一人物には思えないというまたまた大きな問題が浮上してしまったりもするのです。
結果として、個人的に「小池ルパン」は『複製人間』と無理やりつなげなくてもいいから、単体のシリーズとしての完成度を高めて欲しかったなあ……と思ったのでした。これは、やはり『ジークアクス』に感じていた不満にも近いのです。作品のファンだからこその、贅沢な不満でもあると思うのですけどね。
映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』公式サイト

映画ライター。WEB媒体「All About ニュース」「マグミクス」「ねとらぼ」「女子SPA!」「NiEW(ニュー)」、紙媒体「月刊総務」などで記事を執筆中。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。ご依頼・ご連絡はhinataku64_ibook@icloud.comまで。