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ネタバレ感想『メイドラゴン さみしがりやの竜』が描く戦争と日常。ドラゴンの“ちょろさ”が人間社会に突きつけるもの


『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』は、とても現代的な物語だった。制作陣が世相を反映しようと思ってこのエピソードを原作から選んできたわけではないのだろうけど、世の中の動きとリンクするように、ほのぼのとした日常をベースにしたこのアニメに「戦争」の影が忍び寄る展開が描かれた。

入場者特典

竜たちの戦争

小林さんちで暮らすカンナのもとに、カンナの父親を名乗る男・キムンカムイが現れた。豪快な酒の飲みっぷりできっぷのいい男のようだが、頭の中は争いのことばかり。敵対勢力との戦争に勝つために、かつて自分が追い出したカンナを再び呼び戻そうとやってきたのだ。

ひどい父親だが、ドラゴンは人間の物差しでは測れない。カンナも父親の愛情に飢えているところがあり、父の申し出を受けるべきか葛藤する。カンナは一人、竜の世界に戻ることを決めるが、小林さんはカンナを救い出すべく、トールと一緒に竜たちの戦争に足を踏み入れる。

越谷をモデルにした郊外の平和な日常から、一転して竜たちが争う危険な世界へと小林さんは関わることになる。この平穏な日本の日常と、全く異なる争いが日常の竜の世界との対比によって色々なことを考えさせられた。

遠くで起きている戦争に関わるということ

小林さんは竜の戦争に関わることなく平和に生活を続けることもできたはず。カンナは親の元に帰ったのだ。さみしいけれど、カンナも父親を求めている。仕方ないかとあきらめることもできただろうけど、小林さんはそうはしなかった。そして、カンナをただ救い出すだけじゃなく、竜の争いを止めるために対話を試みるのだ。

カンナとその父親が関わっているからという事情もあるだろうが、遠くの戦争を自分とは関係ないこととして流さずに、小林さんは積極的に関わろうとしている。この日本で生活をしていると、イランもガザもウクライナも、遠い国で起きている争いなわけで、ほとんど自分と関係ないと思って生活している人が大半かもしれない。でも、知ってしまったからには、流さないのが小林さんのすごいところだ。大人として立派だ。

翻って自分は、遠い国の戦争にきちんと関わろうとしているだろうか、と生活を見つめ直したくなったのだった。

ドラゴンはちょろいということの真意

本作は「ドラゴンのちょろさ」についての見解も面白かった。

小林さんはドラゴンを乗せるのがうまくて、簡単に乗せられるドラゴンを「ちょろゴン」だと言っているのだが、そのちょろいというのは、要するに何にでも染まりやすい純粋な状態であるということ。染まりやすいから、環境次第では争うことしか考えられないようになるし、憎しみあう環境にいれば憎むことしか覚えない。親子の愛情を育まないのが当たり前の環境では、父親も愛情を娘に注ぐことはしない、といった具合に。

トールは登場したての頃は人間のことを下等生物と言っていたが、あんまり言わなくなってきている。それは小林さんとの生活によって考えが変わったのかもしれない。染まりやすいから、人間の常識で暮せばすぐに変わっていく。

でも、それって人間も一緒だなと思う。人間も環境次第でいくらでも変わる。人間だって十分ちょろいよね。

だからこそ、人も竜も、良い環境で暮らすべきで、カンナは争いの中で生きるよりも、平和な小林さんちで暮らした方が良いのだ。

子どもに良い環境を与えるのは、親の役割だ。その意味で小林さんはカンナの親として立派なことをしている。

親の責任、大人の責任、そういったことがしっかりと描けているとても良い映画だった。京都アニメーションのアニメーション技術は相変わらず高水準だし、演出もしっかりと効いているし、見応えある映画だ。

小林さんちのメイドラゴン : 8 (アクションコミックス)

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