[PR]

トランプ氏、CBS親会社パラマウントと電撃和解 1600万ドル支払い、『60ミニッツ』訴訟で合併承認への布石か


エンターテインメント大手のパラマウント・グローバルは2025年7月1日、ドナルド・トランプ大統領が起こした訴訟において、1600万ドル(約24億円)を支払うことで和解に合意したと発表した。この訴訟は、CBSニュースの看板番組『60ミニッツ』が2024年10月に放送したカマラ・ハリス副大統領のインタビューが、トランプ氏に不利になるよう「欺瞞的に編集された」と主張していたものである。

 

和解の背景にスカイダンスとの大型合併

 

今回の和解は、多くの法曹関係者が訴訟は棄却されると見ていただけに、業界に衝撃を与えた。和解金1600万ドルはトランプ大統領の図書館に寄付される。パラマウント側は公式な謝罪は行わないものの、今後の大統領候補者インタビューのトランスクリプト(文字起こし)を放送後に公開することに合意した。

この決定の裏には、パラマウントが現在進めている制作会社スカイダンス・メディアとの経営統合が大きく影響していると見られている。この大型合併には、連邦通信委員会(FCC)を含む規制当局の承認が不可欠である。FCCのブレンダン・カー委員は以前から、この『60ミニッツ』のインタビュー問題を合併審査の際に取り上げると公言しており、パラマウント経営陣は訴訟を取り下げることで、合併承認への障害を取り除く狙いがあったとみられる。

パラマウントの共同CEOであるジョージ・チークス氏は株主総会で、「訴訟を継続することによる高額な訴訟費用、予測不可能なリスク、そして事業運営への支障を避けるため、企業が和解を選択することはよくある。和解は、不確実性や混乱に悩まされることなく、企業が本来の目的に集中することを可能にする」と述べ、経営判断であったことを強調した。

 

訴訟の原因となった「60ミニッツ」の編集問題

 

訴訟の発端となったのは、トランプ氏が「欺瞞的な編集」と指摘した『60ミニッツ』のインタビュー内容である。プレビュー映像と本放送で、ハリス副大統領が同じ質問に対して異なる回答をしているように見えたり、中東問題に関する回答が不自然に長く使われたりした点が問題視された。

これに対しCBS側は、放送時間の制約から長いインタビューを編集するのは業界の標準的な慣行であり、どちらの場面も同じ質問に対する回答の一部だと一貫して主張していた。

 

CBSニュース内部に広がる動揺と反発

 

この和解は、CBSニュースのジャーナリストたちに大きな動揺と失望を広げている。報道の独立性が脅かされるとの懸念からだ。

実際に、4月には長年番組を率いてきた『60ミニッツ』のエグゼクティブ・プロデューサー、ビル・オーエンズ氏が「番組のために正しいことに基づいて独立した意思決定ができなくなった」として辞任。彼の後任として番組を引き継いだスコット・ペリー特派員は、「親会社であるパラマウントは合併を完了させようとしている。トランプ政権の承認が必要だ。パラマウントは新たな方法で我々のコンテンツを監督し始めた」と番組内で発言し、親会社からの圧力が存在したことを示唆した。

さらに5月には、CBSニュースおよびステーション部門のトップであるウェンディ・マクマホン氏も「会社と私との間で、今後の進むべき道について合意できなかった」との声明を残して辞任しており、経営陣と報道現場の深刻な対立が浮き彫りになっている。

 

報道の自由への懸念と新たな訴訟戦術

 

CBSニュースのジャーナリストが所属する全米脚本家組合東部支部(WGAE)は、「この和解は、パラマウント・グローバルとスカイダンス・メディアの合併承認を得ることを期待して、政権に恩を売ろうとする見え透いた試みだ」と厳しく非難。「パラマウントがトランプ氏に屈したこの決定は、ジャーナリストが権力者を報道する能力を脅かすものだ」との声明を発表した。

今回のトランプ氏の訴訟は、従来の名誉毀損ではなく、テキサス州の消費者保護法における「欺瞞的な広告」を根拠とする新しい戦術が用いられた点でも注目される。これは、報道内容が視聴者(消費者)を欺いたと主張することで、言論の自由を盾にした報道機関への反論を回避する狙いがあると専門家は指摘している。

トランプ政権は、FCCなどの規制当局の人事を通じて報道機関への圧力を強めており、今回の和解は、政府に批判的な報道を抑制しようとする動きが、企業の経営判断にまで影響を及ぼした象徴的な出来事として記憶されることになりそうだ。

ソース:CBS Settles with Trump Over Kamala Harris 60 Minutes Interview Suit