アメリカでは昨年からスタートしていたYouTubeのオリジナルチャンネル。テレビ局や制作プロダクションにYouTubeが制作資金を提供し、YouTubeでしか見れないオリジナルコンテンツを作るという時代になりつつあるのですが、この試みが日本でも開始となりました。
YouTube Japan Blog: YouTube がテレビ局、芸能プロ、映像・ソフト会社らによる「オリジナル動画」を独占配信開始
YouTube は本日、テレビ局、芸能プロダクション、映像・ソフト制作会社、ら 13 のコンテンツパートナーが、新たに YouTube 上に公式チャンネル開設することを発表しました。
参加パートナーによる 17 以上の公式チャンネルが、YouTube の多様なコンテンツのラインアップに加わり、何れも YouTube でしか視聴できない「オリジナル動画」を公開中、または今後公開する予定です。
放送中のテレビ番組とのコラボ動画、芸能プロが提供する音楽、コメディ、ホラー、日本のポップカルチャー等の動画、そして、鉄道・自動車等の乗り物動画、他、多岐にわたる「オリジナル動画」は多様なニーズに応え、日々更新されることで、より多くの利用者の皆さんが今まで以上に、何度も YouTube に戻ってきたくなるような内容となっています。
まずは17のオリジナルのチャンネルが開設されるとのこと。日本では制作費は広告収入の前払いという名目になるようです。
この動きがオンライン動画市場と放送局にとって大きな動きになると思います。基本的にアマチュアとセミプロの世界であったネット動画にプロの手によるコンテンツが生まれる意義は大きいし、放送局にとっては新しい市場の創出になります。放送局にとっては同時にパンドラの箱を開けたことにもなります。
TVは制作も流通もアウトプットの端末も全て固定されていました。今でこそマルチデバイスとなりましたが、それでも制作と流通網自体はまだ限定された状態です。そういう限定された流通網で流れる、特定の業者が制作したコンテンツを『TV番組』と今まで呼んでいました。『テレビ』とみんなが呼ぶものには暗黙の内の共通理解がありましたが、テレビ局自身がYouTube向けに番組を作るというのは、その暗黙の了解に挑戦するということになります。
去年の4月のエントリーでも書いたのですが、ぼくらのテレビという単語で想起する事物が決定的にこれから変わっていくのかもしれません。今回、テレビ局自身がその道への第一歩を踏み出したことになります。
そして、スマートフォンの普及によってコンテンツ業界に訪れた大きな変化の1つにマイクロコンテンツへのニーズの高まりがあります。ゲームは作り込まれたパッケージ製品よりもアングリーバード的なカジュアルで簡単なものに、テキストコンテンツも長文すぎないものへのニーズが確実に増えています。テレビ局もまたこの市場のシフトに適応しないといけないわけですが、地上波はタイムテーブルに沿ってコンテンツの長さを決められてしまっているので、それらをそのままスマートフォンが主導するマイクロコンテンツ市場で戦わせるよりもYouTubeでサクッと見れる短いコンテンツの方が良いという判断もあったでしょう。スマートフォンとリビングのテレビでは人の接触時間ではスマートフォンの方が確実に長い。可処分所得の獲得競争でこのスマホという窓口を無視するわけにはいきません。
この辺の分析は東洋経済の以下の記事が詳しいです。
YouTubeに踏み込むテレ朝、ためらう日テレ
ネット動画市場にとっての意味
一言でいうと囲い込みなのですが。アメリカだとオンラインで映像コンテンツを配信するプラットフォームは、YouTube, Netflix, Hulu, Amazon, iTunesなどなど、多く存在し、割とどこのプラットフォームでも同じ作品を視聴可能です。どのサービスもマルチデバイスに対応しているし、使い買ってもあまり変わらず、ハリウッド映画もテレビ作品も大抵見れてしまいます。なので現在はオリジナルコンテンツの充実によって競争が行われている状態です。話が逸れますがNetflixのオリジナル作品「House of Cards」はケビン・スペイシー主演&デビッド・フィンチャー監督で、セブンファンの僕としてはものすごい楽しみにしています。
YouTubeの今回のオリジナルチャンネル開設の動きはこの流れを組むものですね。
日本ではニコニコ動画がすでにオリジナルコンテンツ作りにかなりのコストを割いていて、先行している状態ですがネット動画はこの2つの一騎打ちにような感じになるんでしょうかね。そうなるとニコニコもより一層面白い作品作りを目指すようになるでしょうし、良い競争の循環が生まれてくるといいですね。
昔の深夜番組のノリを取り戻せるか
さて、アメリカではYouTubeのオリジナルチャンネルは100以上あるのですが、その中からABC放送の地上波番組に「昇格」する作品も登場しました。
YouTube製作のオリジナル番組がABCでオンエアへ
日本でもネットで人気を博した作品のバージョンアップ版を地上波で放送するなどの試みがなされれば、ネット動画はプレマーケティングの機会を作る事ができますね。いきなり地上波でできそうにないかも、と企画段階では思われた作品を実験的にネットでまずやって見るというトライアルのチャンスも増えます。
昔の深夜番組には実験的な企画が多くありましたが、そこからゴールデンに昇格した番組もありましたよね。ネット動画と地上波放送がああいう形で繋がることができれば、より面白いコンテンツを作る土壌が増やせるんじゃないでしょうか。
ネット動画はアマチュア、放送波で流す番組はプロ作品という暗黙の共通理解はすでに大分前から崩れていたかもしれませんが、今回YouTubeのオファーを受けて、自分たちでその境界線を踏み越える決断をしたのは、とても意義のあることだと思います。同時に「放送」の存在意義もある程度突きつけられることになるでしょう。YouTubeでプロの作品流せるなら、全てそこで流せばいいじゃないか、という意見に対して、放送の必要性を説得力を持って回答していく必要があります。スマートTVやSTBがあればYouTubeはリビングのテレビでも見れてしまいますからね。(ネットトラフィックの問題はありますが、それとは別にやはり放送免許を持つだけの意義を示す必要はあるでしょう)
さて、日本のテレビとネット動画の世界がどのように変わっていくのか。より魅力あるコンテンツがより多く生まれるためにいい循環を生まれることを期待します。
東洋経済新報社
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