動画共有プラットフォーム「TikTok」のショウ・チュウ(Shou Chew)最高経営責任者(CEO)が、カナダ政府による同社のカナダ事業閉鎖命令を巡り、メラニー・ジョリー産業大臣に緊急の会談を要請していることが明らかになった。The Canadian Pressが入手した書簡によると、チュウCEOは7月2日付でジョリー大臣に2週間以内の直接会談を求めている。
時代遅れで非生産的な命令だと主張
チュウCEOは書簡の中で、カナダ政府が昨年11月に下した事業閉鎖命令について、「異なる政府、異なる時代に出されたもので、今日の現実を反映していない」と指摘。命令の根拠となった米国でのTikTok禁止の動きが変化している現在、この命令を維持することに「何のメリットもない、時代遅れで非生産的なものだ」と強く批判した。
カナダ政府は2023年秋、TikTokの親会社である中国企業ByteDance社に対する国家安全保障上の審査を開始し、2024年11月にカナダ事業の解散を命令した。この命令は、事業運営の停止を求めるもので、カナダ国内のユーザーは引き続きアプリを利用できる。
チュウCEOは、この命令を強行すれば、カナダは諜報情報を共有する同盟「ファイブ・アイズ」(米国、英国、オーストラリア、ニュージーランド)の他の国々から孤立することになると警告。命令は「もはや当てはまらない、米国におけるTikTokの将来に関する想定」に基づいていると主張した。
カナダ事業への深刻な影響
チュウCEOは、ジョリー大臣の介入がなければ、TikTokはカナダ国内の350人以上の従業員を解雇し、カナダへの直接投資を停止し、クリエイターや文化への支援を打ち切らざるを得なくなると訴えた。「事業の閉鎖プロセスは、急速に危機的な局面を迎えつつある」としている。
この動きと関連して、TikTokは7月7日、カナダの音楽賞であるジュノー賞やトロント国際映画祭など、複数の芸術機関へのスポンサーシップから撤退すると発表した。
ジョリー大臣の報道官は、書簡への返答やチュウCEOとの会談予定について、現時点ではコメントしていない。
背景にある国家安全保障上の懸念
カナダ政府の命令の背景には、TikTokと親会社ByteDanceに対するプライバシーと安全保障上の懸念がある。特に、中国の国家情報法が、国内の組織に対して政府の情報収集活動への協力を義務付けている点が問題視されている。
政府は「特定の国家安全保障上のリスクに対処するため」に行動を起こしたとしているが、具体的なリスクの内容は明らかにされていない。
一方、TikTok側は命令の差し止めを求めて連邦裁判所で争っている。同社は、カナダにとって安全保障上の脅威であるという証拠は一切提示されておらず、政府は解決策の議論に関心を示してこなかったと反論。データセキュリティのプロトコル強化や透明性の向上、監視措置の追加といった対策で、政府の懸念は払拭できると主張している。
チュウCEOは、事業閉鎖命令が実行されれば、カナダ国内に1400万人のユーザーがいるにもかかわらず、同社は「カナダの管轄内に拠点も代表者も持たない」ことになると指摘。カナダ国内にチームが存在することで、議会への出席や規制当局との連携、法執行機関への協力、選挙管理委員会との連携など、カナダの政策立案者や当局に対する説明責任を果たしてきたと、国内拠点の重要性を強調した。