『ヘレディタリー/継承』や『ミッドサマー』で世界中の映画ファンを震撼させたアリ・アスター監督。その待望の最新作『エディントン』で撮影監督を務めた巨匠ダリウス・コンジが、ロサンゼルス・タイムズのインタビューに応じ、その独特な映像アプローチについて語った。ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーンら豪華キャストが集結した本作の、強烈なビジュアルの裏側が明らかになった。
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『エディントン』は「モダン・ウエスタン」である
『エディントン』は、パンデミックの最中にある小さな田舎町を舞台に、市長(ペドロ・パスカル)と地元の保安官(ホアキン・フェニックス)の対立を描く物語である。アリ・アスター監督自身は本作を「アメリカの土地を舞台にしたヨーロッパの心理スリラー」と表現しているが、撮影監督のダリウス・コンジは、視覚的には異なるアプローチを取ったという。彼は本作を「モダン・ウエスタン(現代の西部劇)」と捉えた。この解釈は、批評家たちによるレビューでも predominantly described(支配的に記述されている)ものと一致している。
「目がくらむほど明るく、決して明るすぎることはない」光へのこだわり
コンジは本作のビジュアルコンセプトについて、特に「光」の表現に並々ならぬこだわりがあったことを明かした。
「私たちは屋外のシーンを非常に明るく、けばけばしいほど明るくしたかった。光が強すぎて、色やコントラストが少し飛んでしまうくらいにね。それでも、決して明るすぎるということはなかった」とコンジは語る。
この独特なアプローチにより、『エディントン』は観る者に強烈な視覚体験を与える、唯一無二の西部劇ダークコメディとして完成したのである。
巨匠ダリウス・コンジとアリ・アスター監督、初の協業
ダリウス・コンジは、デヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』やミヒャエル・ハネケ監督の『アムール/愛』など、映画史に残る傑作の撮影を手がけてきた世界的なレジェンドである。『エビータ』や『バルド、偽りの記録と一握りの真実』ではアカデミー賞撮影賞にノミネートされた経歴も持つ。
コンジは以前からアスター監督のファンであり、特に賛否を呼んだ『ボーはおそれている』の擁護者でもあったが、二人が仕事をするのは今回が初めてであった。しかし、このコラボレーションは極めて順調に進んだという。
「アリと私には共通言語がある。一緒に仕事を始めてすぐに、私たちはダークな映画、それも照明が暗いという意味ではなく、物語がダークな作品に対して非常に似た好みを持っていることに気づいたんだ」とコンジは語った。
アスター監督に影響を与えたコンジの撮影哲学
一方のアスター監督も、コンジとの仕事が自身の映像に対する見方を再構築するほどの経験だったと語っている。
「ダリウスと私は、意図のないカメラの動きを嫌う。しかし、これまで私が構図上気にも留めなかった特定の事柄が、ダリウスをひどく悩ませた。そして今や、それが私の頭にもこびりついている。例えば、ダリウスはたとえ足首であっても、人の脚をフレームで断ち切ることを嫌うんだ。彼の持つ多くのこだわりが、私のシステムに組み込まれたよ」
もっとも、コンジ自身はそのルールが絶対ではないとも説明する。「ルールを持ち、そして、今がそのルールを破る瞬間だと決断するんだ」と、彼は柔軟な姿勢を示している。
IndieWireの2023年のインタビューで、コンジは自身の撮影哲学の核心に触れている。「重要なのはフレームの中にあるものだけではない。フレームの外にある世界が非常に重要なんだ。俳優の視線の先にフラッグや機材がない方がいい。なぜなら、彼らにシーンを感じてほしいからだ」と彼は言う。「映画の世界は技術的なものだけではない。俳優の周りの世界を感じ、彼ら自身になりきること、それが大切なんだ」。
アリ・アスターとダリウス・コンジという二人の才能の化学反応によって生み出された『エディントン』。その「過剰に明るい」世界が、観客にどのような衝撃を与えるのか、期待は高まるばかりである。