アート系映画の配信プラットフォームとして知られるMUBIが、イスラエル軍関連企業へ投資するベンチャーキャピタルからの資金調達を巡り、ユーザーや従業員から激しい批判を浴びている。これに対し、MUBIの創業者兼CEOであるエフェ・ジャカレル氏は2025年8月14日、声明を発表し、同社が戦争に資金を提供しているとの疑惑を「全くの事実無根」であると否定した。
CEOが声明、戦争への資金提供を否定
ジャカレルCEOは声明の中で、問題となっているベンチャーキャピタル「セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)」からの1億ドルの投資について、MUBIが生み出す利益がセコイアのポートフォリオにある他の企業(イスラエル軍関連企業を含む)に資金提供することはないと明確に述べた。
また、イスラム嫌悪的と非難されるSNS投稿で物議を醸したセコイアのパートナー、ショーン・マグワイア氏について、MUBIの運営や戦略には一切関与しておらず、同氏の見解を支持するものではないと強調。セコイア側にも強い懸念を伝えたとしている。
ジャカレル氏は、セコイアはあくまで少数株主であり、番組編成や編集、財務上の意思決定に対する監督権限を持たないことを説明。自身が筆頭株主として経営権を完全に掌握していると主張した。
批判を受け、倫理的な資金調達ポリシーを策定
投資金の返還という最も強い要求には応じなかったものの、ジャカレル氏は今後の対策として以下の3つの主要な取り組みを発表した。
- 倫理的な資金調達・投資ポリシーの策定 将来の資金調達パートナーに関する明確な基準を設定し、投資家の利益が編集やコミッショニングの決定から切り離されることを保証する。このポリシーは8月15日に公開され、一般からのフィードバックを募った後、10月15日に最終版が公開される予定である。
- アーティスト諮問委員会の設立 映画監督やアーティスト、人権デューデリジェンスの専門家などからなる独立した諮問委員会を9月15日までに設立。上記ポリシーに関する助言や、MUBIの価値観に関する独立したガイダンスを提供する。
- 危機に瀕したアーティスト支援基金の設立 今後3年間で、紛争、避難、検閲の下で活動する映画製作者(パレスチナの映画製作者を含む)を支援するための基金を設立する。詳細は10月30日までに発表される。
従業員の半数が投資返還を要求する書簡
今回の騒動は社内からも強い反発を招いている。IndieWireが入手した情報によると、MUBIの従業員400人以上のうち、約半数にあたる201人が匿名で経営陣に書簡を送付していたことが明らかになった。
6月16日に送られたこの書簡では、経営陣に対し以下の3点を要求している。
- セコイア・キャピタルからの1億ドルの投資金を返還すること
- セコイアのパートナーであるアンドリュー・リード氏をMUBIの取締役から解任すること
- MUBIを「殺人のビジネス」に関与させるような将来の資金調達を一切拒否すること
書簡は、今回の投資が「パレスチナ人に対するイスラエル政府による進行中のジェノサイドに、MUBIと我々一人ひとりを加担させるものだ」と厳しく非難し、会社の評判と使命を深刻な危機に晒していると訴えた。
映画製作者やユーザーからもボイコットの動き
社外からも批判の声は高まっている。先週には63人の映画製作者が公開書簡に署名し、MUBIに対してセコイアを非難し、リード氏を取締役から解任するよう求めた。
SNS上ではユーザーによるボイコットの呼びかけが広がり、サブスクリプションを解約する動きも出ている。従業員の一部は、経営陣が当初、これらのオンラインでの批判を「トローリング(荒らし)」と表現し、事態を軽視していたことに強い不満を感じていたと証言している。
ジャカレルCEOが発表した新たな方針が、傷ついたブランドイメージを回復させ、コミュニティの信頼を取り戻すことができるのか、今後の動向が注目される。
ソース:MUBI CEO Claims Investment Connection to Funding the War Is ‘Untrue’