米ABCの人気深夜トーク番組『ジミー・キンメル・ライブ!』が、司会者ジミー・キンメルの政治的発言を巡り無期限の放送中断に追い込まれた。発端は保守派活動家の殺害事件に関するモノローグだったが、その裏では広告主や系列局からの激しい圧力、そしてディズニー経営陣による苦渋の決断があった。
発端となったキンメルの「MAGA」発言
問題となったのは、9月16日(月)放送の番組冒頭のモノローグである。キンメルは、保守派活動家チャーリー・カークの殺害容疑者について言及した際、「MAGA(トランプ支持者)の一味」であると示唆する発言を行った。
「週末にかけて、MAGAの一団がこのチャーリー・カークを殺害した若者を、彼らの一味以外の何者かに見せかけようと必死になり、政治的な得点を稼ごうとあらゆる手を尽くしたことで、我々は新たな低俗さの極みに達した」とキンメルは述べた。
この発言は直後からソーシャルメディア上で激しい批判を浴び、大規模な炎上へと発展した。
広告主と系列局からの激しい圧力
事態がエスカレートしたのは、連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長がポッドキャストでこの問題に言及してからである。これを機に、複数のABC系列局のオーナーがディズニー上層部に懸念を表明。さらに、広告主からの抗議電話も殺到し始めた。
特に、全米に多くの系列局を持つネクスター(Nexstar)やシンクレア(Sinclair)といった大手メディアグループが番組の放送中止をちらつかせたことが、決定的な圧力となった。関係者によると、ABCが何らかの対応を取らなければ、ワシントンD.C.を含む広範囲な地域で番組が放送されない事態に発展する可能性があったという。
さらに、ディズニー従業員のメールアドレスがネット上に晒され、一部には殺害予告が届くなど、状況は従業員の安全を脅かすレベルにまで深刻化していた。
ディズニーとキンメル側の交渉決裂
ディズニーとABCの幹部は、事態の鎮静化を図るためキンメル側と協議を重ねた。経営陣は、18日(水)の放送でキンメルが状況を沈静化させるような対応を取ることを望んでいた。
しかし、キンメル側に謝罪の意思はなく、むしろ「自身の発言が特定の人々によって著しく誤解されている」と弁明し、自らの立場を擁護する構えだったという。ディズニー側はこの対応が「MAGAのファン層をさらに刺激し、火に油を注ぐことになる」と判断。一方、番組関係者はキンメルの姿勢を「アウトレージ(世間の怒り)に屈しない」ものだったと語っており、両者の溝は埋まらなかった。
CEOによる「最後の手段」としての決断
交渉が暗礁に乗り上げる中、番組収録の時間は刻一刻と迫っていた。最終的に、全米約200の系列局のうち66局がこの日の放送を行わない意向を表明した段階で、ディズニーCEOのボブ・アイガーとテレビ部門トップのデイナ・ウォルデンが番組の中断という「最後の手段」を決断した。
関係者によると、ウォルデン氏がキンメルに決定を伝えたが、謝罪を要求することはなかったという。ディズニー側は番組再開の道を探っているが、その実現はキンメルが事態の鎮静化プロセスに協力するかどうかにかかっている。また、多くの系列局の意向も番組の未来を左右する重要な要素となるであろう。