米国アカデミー賞(Oscars)の公式YouTubeチャンネルにて、『Inside The Animation & Artwork of ‘Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Infinity Castle’』と題された特別映像が公開された。
2025年に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』。世界中のアニメーションが効率的な3DCGへと移行する中で、なぜufotableは「手描き」にこだわり続けるのか。映像内で語られたのは、制作会社ufotableの「圧倒的非効率」が生み出す美学と、制作現場の壮絶な戦いの記録であった。
世界の潮流に逆らう「圧倒的非効率」な選択
映像の冒頭、櫻井孝宏のナレーションはufotableの姿勢を「圧倒的非効率」という言葉で表現した。3DCG技術が進化し、世界のアニメーション制作の主流がシフトする中、同社はキャラクターの動きをイチから描き続ける道を選んでいる。
ufotable代表であり総監督を務める近藤光氏は、その理由について「その絵描きにしか描けないものがある。その時でしか描けない絵がある」と語る。手描き特有の「不安定さ」こそが魅力であり、それが観客の心を動かすのだと断言する。この人間味あふれるアナログな力が、ufotableが長年培ってきたデジタル技術と融合したとき、『鬼滅の刃』という作品の真価が発揮されると動画は語る。
2,200カットの激闘を支える「内製」の強み
『鬼滅の刃』無限城編では、高度な3DCG技術を駆使しながらも、その5倍以上もの作画スタッフが社内で筆を執っている。挑んだカット数は実に2,200。
特筆すべきは、その制作体制だ。総監督の近藤氏が骨組みを作り、監督の外崎春雄氏と総作画監督の松島晃氏がすべての原画に目を通す。「同じシーンでも誰が描くかで全く異なる絵になる」ため、誰をどのカットに配置するかが極めて重要だという。
ufotableには、5年、10年、あるいは20年と共に作品を作り続けてきたメンバーが集結している。互いの得意分野を知り尽くした「職人」たちが、一筆入魂で線を重ねていく。この極限まで高められた内製率こそが、他者の線が誰かの魂に火をつけるという、熱量の高い現場を生み出していると語られている。
「レンダリングに10年」無限城という異常空間の構築
物語の舞台となる「無限城」は、重力や遠近法を無視した複雑怪奇な建築空間だ。寺尾優一はこのビジュアル構築にあたり、最初のレンダリング計算で「完了まで10年かかる」という絶望的な数値を叩き出したと明かす。
しかし、彼らは諦めなかった。デジタル映像部によるライティングからコンポジット、そして作画部による魂のこもった線画の融合。フィニッシング演出監督の寺尾氏が「手描きの持つ熱をデジタルで包み込みたい」と語るように、2次元の作画に3D的なカメラワークとエフェクトが加わることで、画面に圧倒的な奥行きと密度が生まれている。
1ピクセル単位で線の感情表現を検証し、音楽のミックスすら何度もやり直す。その作業量は、まさに「描いても描いても終わらない」レベルだという。
アニメーションという名の「戦場」を越えて
映像の終盤、ナレーターは制作現場を、作中の鬼舞辻無惨の言葉を借りて「地獄」あるいは「戦場」と形容した。しかし、その困難な戦いに挑み続けた結果、本作は完成へと至った。
「リアルでありながら現実そのものではない、線と光で感情を描く絵作り」。それが『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』の正体だ。アカデミー賞公式がこの特集を組んだという事実は、本作が単なる日本のアニメ作品の枠を超え、世界的な映像芸術として評価されつつあることの証左と言えるだろう。
